世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2015
世界経済評論IMPACT No.2015

中国は米新政権にどう向き合っていくのか

真家陽一

(名古屋外国語大学 教授)

2021.01.18

 バイデン新政権が1月20日に誕生する。トランプ政権下で米国との対立が激化した中国の習近平政権は,バイデン新政権にどう向き合っていこうとしているのであろうか。

 中国側の見方を端的に示しているのが,バイデン氏が勝利宣言を行った2020年11月8日付けで中国紙「環球時報」に掲載された社説「米中関係に幻想を抱いてはならず,また努力も放棄してはならない」だ。

 社説は「政権の座につくバイデン氏は,中国に強硬な態度を基本的には維持するだろう。新疆,香港など米側が定義するいわゆる「人権」問題で,民主党政権がますます厳しい態度をとる可能性は排除できない。要するに両国関係において米国の圧力が緩むことはないのである」と率直に述べている。

 他方,社説は「北京はバイデンチームと出来るだけ十分な意思疎通を図り,緊張した米中関係を予見可能性が比較的高い状態に回復させるために努力すべきだ」と強調。米中関係において調整の余地がある分野として,①感染症対策,②気候変動,③経済・貿易,④人的交流を挙げ,「中国はバイデン氏が米中関係の緩和的逆転をもたらすかもしれないと幻想を抱いてはいけないが,同様に米中関係改善に対する信念を弱めてもいけない」と指摘している。

 その上で,社説は結論として「中国が米国の戦略的挑戦に対応する最も根本的な方法は絶えず自己を強化することだ,と言っておかなければならない。我々が米国に押しつぶされず,かき乱されない強大な存在になり,対中協力の展開を米国が自己の国益を実現する上で最良の方途にさせること,これが根本的な道である」と強調している。

 中国にとって2021年は,第14次5ヵ年計画が始まる節目の年となる。同計画は,3月5日から開催が予定されている全国人民代表大会(全人代,国会に相当)において,数値目標も含めた詳細が最終的に決定される運びとなるが,その草案については,2020年10月29日に閉幕した中国共産党第19期中央委員会第五回全体会議(五中全会)で審議されている。

 同会議で採択された「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標の策定に関する建議」の内容を見ると,長期化が予想される米中摩擦への対応が色濃く反映されている。特に,「科学技術の自立強化」「産業チェーン・サプライチェーンの現代化」「国内大循環」という3つの政策には,デカップリングリスクに備える意味でも技術の国産化を推進し,産業チェーン・サプライチェーンを再構築しつつ,輸出主導から内需主導への転換を加速することで,対米依存を抑制する狙いがあることがうかがわれる。

 他方,当然のことながら内需だけで経済が成り立つわけではない。また,技術の米中デカップリングを考えても,自国だけでの経済運営は困難であり,中国は「国内・国際双循環」を通じた対外的な連携も模索している。こうした観点から,「国際的な産業安全協力を強化し,より安全で信頼性のある産業チェーン・サプライチェーンを形成するため」に必要とされたのが,1つは2020年11月15日に署名した「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」であり,もう1つは12月30日に大筋合意した欧州連合(EU)との「包括的投資協定」(CAI)だと指摘されている。

 さらに,2020年11月20日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議において,習主席が加入を「積極的に考慮する」と表明した「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11協定)」についても,2020年12月18日に終了した「中央経済工作会議」(翌年の経済政策の基本方針を決定する重要会議)において打ち出された2021年の8大重点任務の1つである「改革開放の全面的な推進」の中で謳われており,引き続き重要な政策課題となっている。

 中国にとって2021年は,「第14次5ヵ年計画」のスタートに加えて,7月に共産党結党100周年を迎えるという政治的にも重要な年となる。また,翌2022年には最高指導部の人事や重点政策が決定される5年に1度の共産党大会も控えている。習主席としては,求心力を維持するためにも,米国に対して決して弱腰は見せられない状況におかれている。

 他方,バイデン氏は2021年1月20日の大統領就任直後から2022年の中間選挙対策が大きな課題となる。仮に民主党が敗北すれば,そもそも再選はないと見られるバイデン大統領のレームダック化が加速する恐れもあり,中国に対する強硬姿勢は選挙対策の観点からも弱めることはできないといえよう。

 さまざまな要素を考慮すると,米国新政権の発足以降,米中関係は低位安定がしばらく継続することが見込まれるが,場合によっては,対立がさらに激化する事態も予想される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2015.html)

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