世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2994
世界経済評論IMPACT No.2994

中国の外交活動の活発化をどう捉えるか

真家陽一

(名古屋外国語大学 教授)

2023.06.12

 G7広島サミットが2023年5月19日~21日に開催された。先般のサミットではG7メンバーに加えて,招待国として,ブラジル,インド(G20議長国),インドネシア(ASEAN議長国)など8ヵ国,招待国際機関として,国連,国際通貨基金(IMF)など7機関が参加したほか,ゲスト国として,ウクライナのゼレンスキー大統領が対面で参加したことは大きなサプライズとなった。

 先般のG7広島サミットの影の主役は中国であり,あらゆるテーマで「中国とどう向き合うか」が隠れた焦点であった。他方,習近平国家主席としては,中国に対する圧力や包囲網が強まる中,「先進国およびいわゆる『グローバルサウス』にどう対応するか」が大きな課題となっていた。

 こうした状況の中,2023年3月に開催された全国人民代表大会(全人代,国会に相当)会期中,秦剛外交部長は記者会見を行い,2023年の中国外交の基本方針として,以下の5点を挙げた。

  • ① 元首外交をリード役として,第1回「中国・中央アジア5カ国」サミットおよび第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムという2つの大きなホームグラウンド外交に全力で取り組み,中国外交の独特の風格を示していく。
  • ② 核心的利益を守ることを使命とし,あらゆる形の覇権主義と強権政治,冷戦思考や陣営対抗に反対し,国家の主権,安全,発展の利益を断固として守る。
  • ③ パートナーシップに依拠して,大国との協調や良好な相互交流を促進し,各国との友好協力を発展させ,新型の国際関係の構築を図る。
  • ④ 開放・発展を目標として,国内の質の高い発展とハイレベルの対外開放を支持する一方,「デカップリング」や一方的制裁に反対し,中国の新たな発展で世界に新たなチャンスを提供する。
  • ⑤ 多国間主義を道筋として,人類運命共同体の構築を促進し,国際関係の民主化を推進し,グローバルガバナンスを公正で合理的な方向に発展させ,人類共通の課題に対して,中国の知恵と解決策で貢献する。

 そして,全人代を経て,3期目を本格的にスタートさせた習近平政権の外交活動が活発化の様相を見せている。3月10日にサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介して世界を驚かせたことは記憶に新しい。その後も,3月20〜21日には,ウクライナ危機の政治的解決に向け,習主席がプーチン大統領とモスクワで会談。3月26日にはホンジュラスとの国交を樹立(台湾との外交関係を断交)。4月6日には国賓として訪中したフランスのマクロン大統領と習主席が北京で会談し,緊密な意思疎通を続け,協力を強化していくことで一致した。4月12日には,外交部が「アフガニスタン問題に関する中国の立場」文書を公表。秦剛外交部長は翌4月13日,中国・ロシア・パキスタン・イラン4カ国外相アフガニスタン問題非公式会議を主宰した。4月14日には,国賓として訪中したブラジルのルラ大統領と習主席が北京で会談。多国間の枠組みの中での戦略的協力強化で一致した。4月17日には,秦部長がイスラエル・パレスチナの外相と個別に電話会談を行い,「和平交渉再開に積極的に役割を果たす用意がある」と表明した。4月26日には,習主席がゼレンスキー大統領と電話会談。中国政府ユーラシア担当特別代表をウクライナなどに派遣し,ウクライナ危機の政治的解決について各国と深く意思疎通を図ると表明した。

 5月2日には,秦部長がミャンマーのミン・アウン・フライン国軍総司令官とネーピードーで会見し,「できる限りの援助を提供する」と表明。タンスエ外相とも会談し,中国・ミャンマー・バングラデシュ経済回廊の建設推進を提起した。そして,G7広島サミットより一日早い5月18日からは,習近平国家主席の主宰により陝西省西安市で初の「中国・中央アジアサミット」が開催され,カザフスタン,キルギス,タジキスタン,トルクメニスタン,ウズベキスタンの国家元首が出席した。

 最近の中国の外交活動が活発化している背景には,G7広島サミットへの牽制的な意味合いもあるが(4月のフランスのマクロン大統領,ブラジルのルラ大統領の国賓としての招へい,5月の「中国・中央アジアサミット」の開催など),注目されるのは,中国が地域問題に積極的に関与し,地域問題を解決するための仲介役になろうとする姿勢を強めていることである。

 わずか3ヵ月足らずの間に怒濤の外交活動を繰り広げた中国。3期目を本格的にスタートさせた習近平政権は,今後も中国外交の独特の風格を示していくことを表明しているだけに,中国の外交活動については,これまで以上に慎重に注視していくことが必要であろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2994.html)

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