世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1996
世界経済評論IMPACT No.1996

ベトナム水PPPビジネスについて

鈴木康二

(元立命館アジア太平洋大学 教授)

2020.12.28

 ベトナムで上水道PPPビジネスができないかとの私的な勉強会に参加して気付いたことが三点ある。①水関係では日本のODAは日本企業・日系企業のビジネスに繋げられていない。②稼ぐと儲けるとの違いを理解して仕事をしている日本の開発コンサルタントは少ない。③ベトナムの公務員達は自国の法令の文言解釈しかせず目的的解釈をしない。

 日本のODA機関であるJICAはベトナム向け上水道についての技術協力をやり過ぎるほどやっているが,一件も日本企業のベトナムでの水ビジネスに繋がっていないこと(①)の原因は,②③とも繋がっている。日本の開発コンサルタントが稼ぐことに注力して儲けることを考えていない(②)のは,ベトナムの公務員達が自国の法令の文言解釈で事足れりとして,目的的解釈をしないこと(③)と同様,当面の自らに与えられた仕事は果たせるので,敢て組織ないし相手側から批判される可能性のあることをする必要が無いからだ。

 ベトナムは2020年にPPP法を初めて公布し2021年初より施行する。2015,2018年PPP政令の下では一件もPPP案件が成立しなかったために,実収入が予定収入より25%以上乖離した場合,乖離分を政府と投資家とが折半して補填し事業が継続できるようにするVGFの制度を初めて導入した。現在実施されている火力発電所案件中心のベトナムPPP案件はPPP法令が無い時代そして2009年BOT政令の下での案件だ。CO2削減の国際的な動きの下で,国際協力銀行の融資の可否が話題になっているベトナムでの三菱商事・韓国電力のVing Ang2超々臨界圧石炭火力BOT案件も同様だ。

 ベトナム水分野PPP事業のpre F/SをJICAのODA資金で行った案件は2009-2013年度に7件あるが,いずれも計画はベトナム側に採用されず,その後はODAが付かず水PPPのpre F/S自体が無い。無償でpre F/Sをやってくれると言うのでベトナム公務員は仕事の一環として案件を紹介しただけで,ベトナムの経済発展において乗数効果が高いインフラ案件を紹介した訳ではない(③)。日本の開発コンサルタントはJICAのODA案件を受注すれば売上が立つ,つまり稼げるので仕事が継続できる。案件そのものを儲けられる事業にして,自分達のみならず日本企業・日系企業が儲かり,かつベトナム国家に水PPPは儲かるビジネスなのだと理解して貰うことは目指されていない。無償ODA技術協力を仕事として認識してはいても,技術移転を通してベトナム水事業がPPPでなくても儲けられる体質になることは目指されていない。変わる必要がある。

 売上が立つ,仕事をしていることは,コストと無関係だ。儲かることはコストを意識している。利益とは,売上とそのコストを財務・費用コストだと考えた際の差だ。国家財政で行うよりPPPで行った方がVfM(Value for Money)がある,という際のコストも,現在価値でみた財務・費用コストを見ている。利益だけが儲けではない。社会的コストもあれば自然に与えるコストもある。それらと売上(公務員にしてみれば仕事量)との差が儲けだ。費用・便益計算では社会的余剰をいうが,その数値化された社会的余剰があるだけでは不十分で,他の事業の社会的余剰と比較してもその数値が大きい必要がある。特にPPPでは組織ガバナンスの向上とインフラ運営での技術移転を受ける側のモチベーション向上が儲けに繋がる効果が大きい。更に,自然的余剰ともいえるものも必要だ。ライバル事業と比較してのCO2削減や水使用量の節約・水の景観そして治水防災効果も自然的余剰に入るだろう。

 筆者の考えるPPP事業での儲けとは,VfMがありそれでいて,コストに対する社会的余剰が他の事業よりもかなり大きくかつ数値化された自然的余剰もあるものを指す。そのような儲けを生む事業としてPPP事業が提案されれば,ベトナム政府は必ず実際のPPP事業として取り上げるし,提案した日本企業が関係する日本コンソーシアムが当該PPP案件の入札で受注できるだろう。

 そもそもPPPをインフラに関する財政節約のために行う先進国と異なり,途上国でのPPPはインフラ財政不足のためなのだから,VfM自体が無いにもかかわらず,VfMのみならず社会的余剰の大きさと自然的余剰をも計算して数値化して示せというのは酷だ,との批判はあり得る。しかし,そこまでしなくてはベトナムの公務員は動かないとの認識も必要だ。彼らベトナム公務員は自らを全体の奉仕者だとは思っていない。自国の国益とは公務員個人にしてみれば利他的行為だ。日本からのそこまで考えられた利他的なPPP提案を受領して初めて,彼らは自国の国益になるからとしてPPP法下でのPPP案件を探そうと真剣になる。その際の国益は,自分だけの利益ではない社会的余剰・自然的余剰そして受注者の利益にもなるものなのだと理解できるようになる。彼らが事なかれ主義のPPP法の文言解釈から目的的解釈に変えさせる契機は,儲けの概念だ。このような視点で水PPP案件の組成を考えていれば,その過程で,PPP事業より大幅に繁文縟礼の少ない地方水供給公社の株式化での出資や業務用水供給事業への出資機会に必ずぶつかるだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1996.html)

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