世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1980
世界経済評論IMPACT No.1980

今こそ日本の底力を発揮する時だ

小林 元

(元文京学院大学 客員教授)

2020.12.21

 我々は1980年代から90年代にかけての高度成長により達成した豊かな社会に満足してしまって,第二次大戦後自らを鞭打ってひたすら成長にかけてきたあの心意気を忘れ「失われた20年」に入り込んでしまったようだ。

 かつて東アジアにおける経済成長の順位表では日本は雁の群れを率いるトップであったが,今や中国にこの地位をとって替わられつつあり,IT業界では台湾,韓国の後塵を拝しているのは明らかになっている。日本人はそもそも外圧がかからないと大きく自分たちの在り方を変えようとしない民族だといわれている。

 今回のコロナ禍はまさに降って沸いたような外圧であり,今日本で起こっていることは,ITを軸とする新たな産業革命であるとともに,日本人の人としての在り方の根底のところまで変革を強いているのだと思う。今まで縁で結ばれた人と人が集団で群れるのが良いとされてきた。しかし今やそうした人間関係にまで「social distance」が求められていると私は考えている。テレワークが典型的であり,日本社会は徐々にではあるが個の確立に向かって着実に動いている。

 では失われつつある日本の競争力をいかにして回復するか。

 日本人はPCの発明のような根本的な技術開発はどちらかというと苦手だが,開発されたものを改善し,現場に応用することには極めて優れた力を持っているといわれる。戦後の高度成長がまさにこれであった。これが日本の持つ底力でありそれを発揮する場がいまや目の前に大きく広がっているのだ。

 菅政権が最近打ち出した長期戦略すなわち(1)カ―ボンフリー,(2)DXは時機を得たものである。成長の方向は決まったのである。これからはこの分野においてこの目標を達成するbreak throughな応用技術をいかに開発するかである。1970年代カリフォルニア州が課した排ガス規制は到達達成不可能といわれたのを,ホンダが技術開発して突破してみせた,あのような事例をこれから数多く生み出さねばならないだろう。

 こうした技術開発をするのは人である。問題はこうした開発に挑戦する志が有り,それを成し遂げる知見と,何としてでも成し遂げる気力を持ちかつ人々を引っ張って行ける人をいかに育てるかだ。そのためにはいままでの年功序列と終身雇用に基づいた日本式のメンバーシップ型の雇用形態では対応できないことがはっきりしてきた。問われているのは「貴方は今までどのような実績があり,どんな戦略を今持っており,それを実現するためにどのような能力があるか,そして人を定めた目標に向かって引っ張って行けるか」であり,そこでは入社年次や学歴は2の次ぎ3の次になる。今や日本の人事制度そのものを抜本的に変えることが急務である。筆者は40年間海外事業に従事して世界を見てきたが,今や日本を除いてメンバーシップ制に基づく年功序列人事を行っている国は他には存在しない。これでは海外の有能な人材を導入して競争力を強化するなど夢物語りである。働き方改革というと今までは長時間労働の是正とか雇用の多様化等が主題となってきたが,それらの根底にある日本人の働く基本構造の変革にまで,多少の出血は覚悟のうえでメスを入れねばならない。

 筆者は,すでに述べたようにイタリアに14年間滞在し同国NO.1の企業を育て上げ,北イタリアのエグゼクティブ達がすさまじい生産性をあげて働き,かつ人間らしい生き方をしているのを見てきた。その根底には,短期の成果を求める米国式とは違う3〜5年にわたって人を育てる北イタリア型のJOB型勤務制度がある。この制度の詳細ついてはすでに2020.08.10弊稿にて触れているのでご参照いただきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1980.html)

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