世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1976
世界経済評論IMPACT No.1976

終わりを告げる中国の計画生育

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2020.12.14

 中国の一人っ子政策は終わったようだ。11月9日付け香港の英字紙,サウス・チャイナ・モーニングポストは「中国,ついに計画生育におさらば」というタイトルで,第14次五か年計画と2035年長期目標に関する建議の中から「計画生育」という言葉がなくなったことを指摘した(Zhou 2020)。

 詳しく解説してみよう。まず,中国の一人っ子政策は中国の「計画生育」の柱として1979年頃から始まり,40年間の長きにわたって実施されてきている。少子化が進みすぎたため,2016年から無条件に2人の子どもが持てるようになったが,3人以上の子どもを持つことを禁じている現状では,依然国家が出生を抑制していることに変わりはない。

 中国ではこのような出生抑制政策を「計画生育」(通称は一人っ子政策)と呼んでいる。強制的な堕胎や不妊治療など,一人っ子政策にまつわる悲劇的なストーリーが人々の心に残っており,「計画生育」という政策は言葉も含めて負のイメージがつきまとう。それでも中国の人々はこの政策を仕方ないものとして受け入れてきた(Zhou2020)。

 中国共産党は0,5のつく年に五中全会(第5回中央委員会全体会議)を開催し,国家の五か年計画全体に対する提案を行う(建議)。10月終わりに開催された中国共産党第19回五中全会において,中国共産党は第14次五か年計画と2035年の長期目標に関する建議を公表した。この建議ではじめて,これまであった「計画生育」という言葉がなくなったのである。過去の第12次五か年計画の建議,第13次五か年の建議では,「計画生育を基本国策として堅持する」と記載されていたにも関わらず,である。

 「計画生育」という言葉に着目すれば,2年前にも同じようなことがあった。計画生育政策を実施していた国家衛生和計画生育委員会が2018年に国家衛生健康委員会となり,名前から「計画生育」がなくなった。この時も「計画生育」の終わりが話題になった。歴史的にみると,計画生育を担当する部門は,1964年国務院(政府)の一機関として計画生育委員会が設置されたものの,1968年には衛生部に吸収された。国家計画生育委員会として再出発するのは1981年である。「委員会」は「部」よりも格が一つ上なので,国務院の中でも強い立場であることを考慮すると,1980年代はまさに一人っ子政策を強く推進する意思の表れでもあった。2003年に国家人口和計画生育委員会に名称を変え,人口計画全体も検討することとなる。2013年の機構改革では人口計画は国家発展改革委員会に引き継がれ,計画生育の部分は衛生部と合併する形で国家衛生和計画生育委員会に残った。そして上で見たように2018年に「計画生育」という言葉は政府機関の名前からもなくなったのである。2016年に二人っ子政策に代わった時点で「計画生育」という抑制は緩んだとみていいだろう。

 それでは「計画生育」という出産抑制政策自体は終わりを告げたのだろうか。今回の第14次五か年計画の建議の内容は以下のようになっている。

「高齢化に積極的に対応するための国家戦略を実施する。長期的な人口発展戦略を策定し,生育政策を最適化し,生育政策の包括性を高め,出生前および出生後のケアサービスのレベルを改善し,包括的な育児サービスシステムを開発し,出産,育児,教育のコストを削減し,長期的なバランスの取れた人口発展を促進し,人口の質を向上させる。(以下は高齢化人口に対する施策の内容のため省略)」

 具体的な政策は今後の5年間を見るしかないが,出産抑制は過去のものとなり,名実ともに「計画生育」は終わったとみていいだろう。というのも,出産抑制の象徴であった「計画生育」という言葉から,「生育政策を最適化する」という言葉になったからだ。「最適にする」という言葉のニュアンスとしては抑制と奨励の二つの可能性を含むと考えられる。しかし,これまで抑制が続いていたことを考慮すると,「最適」の中には少なくとも抑制政策の転換を意図していると見るのが適切であろう。

[参考文献]
  • Zhou Xin (2020) ‘China finally waves goodbye to family planning as country gets old, but is the damage already done?’, South China Morning Post, 9 Nov. 2020
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1976.html)

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