世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1956
世界経済評論IMPACT No.1956

RCEPの締結と日中韓関係

韓 葵花(千葉大学 特別研究員)

石戸 光(千葉大学 教授)

2020.11.23

 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が,2020年11月15日に15カ国で署名された。RCEPの交渉は2012年11月20日にはじまり,この数年は毎年において年末の締結を目指したが,8年の歳月をかけて締結に成功し,東アジアにおけるメガFTAの枠組みが構築される。とりわけ日中韓3カ国においては,初めてのFTAが締結されたことになる(中韓FTAは2015年6月に署名,同年の12月から発効済みである)。

 RCEPは日本にとって,CPTPP,日・EU経済連携協定に次いで3番目に締結されたメガFTAであり,日・EU経済連携と同様に世界GDPの3割を占める大きな経済規模で,世界貿易に総額における割合は日・EU経済連携とTPPとほぼ同じ規模(約4割)となる。また日本の貿易におけるRCEPの比率は約5割を占め,TPPと日・EU経済連携の1割と比べると大きな差がある。日本との貿易においてRCEPは他のメガFTAより大きな役割を果たしていることがわかる。日中韓FTAはもし実現すれば日本の貿易において約3割を占めることになり,日中韓FTAは3カ国のみで世界GDP,世界貿易において2割を占める大きな規模であり,中韓はそれぞれ日本にとって大きな貿易相手国である。しかし日中韓FTAの実現は容易ではなく,TPPおよび日・EU経済連携とほぼ同時期に交渉が始まったが,2019年11月の会合交渉を最後に交渉は止まっている。

 ここでRCEPの締結に視点を戻すと,中国商務部は当日付けの報道資料(http://www.mofcom.gov.cn/article/news/202011/20201103015923.shtml)において,「鐘山部長,中国政府を代表して『区域全面経済伙伴関係協定』(RCEP)に署名」と発表し,国務院総理の李克強氏と他のリーダーらが見守る中で行われたとした。またRCEPが財貿易の90%を自由化し,サービス貿易においてもASEAN10カ国との「10+1」タイプのFTAより高い水準を実現し,高水準の貿易の自由化を実現し,知的財産権,電子商取引,競争政策,政府調達について規律されていることにも言及している。続けてRCEPの署名は世界最大の自由貿易圏が成功裏に進捗していること,東アジアの経済統合(中国語で「経済一体化」)の新たな一里塚になると言及されている。さらにRCEPは15カ国で人口,経済規模,貿易総額で世界の約30%を占めているが,それは世界の約3分の1が経済一体化した大きな市場になることを意味し,これは自由貿易と多国間貿易システム(FTA)を力強く支持することとなり,国際抗疫病(疫病への国際的対抗)についての協力,地域産業サプライチェーンの安定,地域と世界の経済の回復と発展を促進すると評価している。なお,RCEP署名後には,中国の報道で「RCEP」という英語名での言及も多くなっている(従来は中国語に翻訳された協定名に言及することが多かったこととは対照的である)。

 一方で韓国については,経済ビジネス報道「‘世界最大のFTA’RCEP誕生,市場の大変化の中,日本と初のFTA,期待効果と展望」(オンライン記事https://www.fta.go.kr/rcep/https://post.naver.com/viewer/postView.nhn?volumeNo=29979765&memberNo=36765180&vType=VERTICAL)では,世界最大のFTAが誕生し,韓国としては新型コロナウィルス感染症の拡大および米中貿易摩擦が続く中,貿易市場の大変化とASEANとの協力の転換点となり,日本と初のFTAという点でRCEPが大きな意味を持っていると指摘している。また,産業通商資源部の話を引用しながら,「特に新型コロナウィルス感染症でグローバル経済と貿易が縮小した状況で,世界最大のFTAを締結することは大きな意味がある」とした。

 周知のとおり,今回締結されたRCEPにインドは参加していないため,その経済効果は限定的という見方もある。しかし上記のように,日中韓にとってRCEPの締結は三国間の貿易・投資を主軸とした経済関係の緊密化への機運を大きく高めており,さらに自由化度の高い三国間の経済連携協定の交渉への追い風となることが期待される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1956.html)

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