世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本をどのような国にするのか:菅政権が提示すべき大命題
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.11.23
日本経済社会のなかで,日本銀行,司法,検察などの「独立で中立的な機関」に政府は手を突っ込み,その機能をゆがめている。最近「日本学術会議」の新会員を巡り,会議が推薦した候補者のうち6人が菅首相により除外された。除外された人は政府の政策に異議を唱えたことがあるようである。除外した理由を菅首相は言わない。かつてイタリアで起こったように,政治が科学・学術に介入すると科学・学術が崩壊し,国の軌道が危険な方に向かうことになることを歴史はずっと警告している。今習近平が中国の知識層に対して精華大学などで「習近平思想」を強制的に教育・履修させているのに似ている。安倍政権になって,日本に「忖度」という妖怪が白昼堂々と徘徊している。これは日本の国を弱体化してしまう。どこかの全体主義国家のように見えてくる。
「ふるさと納税」は,政府が,緊縮財政で,地方交付税交付を削減してきたことを誤魔化そうとするものであった。地方自治体の目を,「返礼品」を餌にして,地方自治体同士で国民の税金の奪い合いに向けさせ,地方の格差を拡大させている。「ふるさと納税」制度は誤った政策であった。中国人による「インバウンド」の売り上げが大きかったことは,中国人にモノを買ってもらわなければならない「貧乏な国:日本」を証明している。「観光立国インバウンド」政策は発展途上国のやる政策である。「移民政策」は,日本の賃金を引き下げ,日本各地で「文明の衝突」を起こしてしまった。
安倍政権は,菅首相と違い,「美しい国になる」,「瑞穂の国の資本主義社会になる」,「世界で最もイノベーションに適した国を造る」という風呂敷を広げたが,何の成果もなかった。その原因は,この「偉大な目標」に対してそれを実現するための具体的な「戦略的実行計画」が抜けていたことである。日本には計画を確実に実行する「エンフォースメント機構と力」が欠落している。
政府は,国立大の「独立行政法人制度」を創り,「大学への交付金」を削減したが,これも誤りであった。「緊縮財政」で,日本政府は科学の開発に金を投じなくなった。交付金の削減で,大学は科学技術を追求することができなくなってしまった。日本は小粒な末端の技術の開発に金を注ぎ込み,科学技術,基幹技術を開発しないで,高い金を払って欧米の技術を使用している。これまでの日本のノーベル賞受賞は,独立行政法人制度以前の時代の研究開発成果であって,これからは日本からノーベル賞受賞者は出ないであろうと心配されている。これで大学の若手の研究環境は,安倍首相の言った事とは真逆で,「日本は最もイノベーションには不適な国」になってしまった。「科学」,「サイエンス」の開発は宇宙の謎を解明するもので,最初の段階からどのような成果が出るか分からないものが多い。ある程度人と金を長時間投入して開発を続けなければならないものである。アメリカがやっているように,このリスクを国家がとるのである。「イノベーション」とはそういうものである。
菅首相は,ある人に言われて,「日本の中小企業の360万社を半分にする。日本の中小企業は生産性が低いので合併により再編成して強化する」と言っている。そして「賃金を上げさせる」とも言っている。資本主義経済活動は,賃金の低下,上昇と関係がある。経済が拡大期に入る段階で,賃金が上がるとそれをきっかけにして企業は生産性向上のための投資をする。生産性向上投資により,賃金上昇を吸収して,企業は更に生産を拡大して発展するものである。賃金が上昇すると国民の所得が上がり,消費が増え,内需が拡大し,企業はますます拡大し,経済は発展する。しかし長いデフレでビジネスの先が見えないときには,企業は投資をしないし,賃金は上げない。不透明な将来のために内部留保を貯めこむ。賃金を上げるとか,中小企業を合併させるとかいう政策は,その手順を間違うと経済・産業を破壊してしまう。先ず25年続いているデフレから脱却させることが第一である。経済が良くなりそうだと分かれば,企業は先への投資をするし,賃金が上がってもそれを生産性の向上投資で吸収し,その勢いで企業を更に拡大するエネルギーが出てくる。そうなると二代目は企業を継ぐ意欲を持つようになり,中小企業の後継者問題は無くなる。
日本の中小企業が日本経済を支えているのだが,中小企業が発展できるような環境を国が創らなければならない。これが菅首相の仕事である。事業活動はその技術や市場の大きさにより企業の「適正規模」が決まる。合併して大きくすればよいということではない。事業規模を大きくし過ぎて駄目になった企業は沢山ある。日本の中小企業はまだ重要な技術を持っている。それが消えないように,また外国にとられないようにしなければならない。今アメリカ金融資本は,デフレの中で日本の優良な中小企業の株価を意図的に下げて,安く買収して,それを高く売り飛ばそうとしている。丁度25年前アメリカのハゲタカ・ファンドが日本長期信用銀行などを潰して,売り飛ばしたことを,今度は日本の中小企業と都市銀行でやろうとしている。これをやらせてはならない。これも菅首相の重要な仕事である。
巷に漏れ聞こえてくる情報では,アメリカのある金融グループに言われ,政府は「ベイシック・インカム」と計画しているという。その目的は,国民全員に「最低生活費の一部というベイシック・インカム」を与え,今ある生活保護制度,年金制度や福利厚生を廃止することにより,国の社会福祉予算を大幅に削減することである。これは菅首相が「国民は自分で生きて行け」という「自助」を徹底するもののようだ。トランプがやろうとしているように,国がやるべきことは,「ベイシック・インカム」ではなく,日本国民が働いて適切な所得を得ることのできる「まともな職場」を多く創出することである。菅首相の「自助」にはこれが必須である。
安倍政権がやった「消費税の増税」。景気が上昇する時に消費税を上げても,経済成長にはマイナスにならず,財政が強化されるが,不景気やデフレの時に消費税を上げると,経済は更に悪化し,国民は金を使わなくなり,税収も下がる。安倍首相は,経済が落ち込んでいた2019年にその消費税を上げてしまった。そしてコロナのダブルパンチを食らった。安倍首相がいくら「賃金を上げよ」と言っても,長いデフレが続く中では企業は賃金を上げられない。歴史を見ても,賃金が上がったのは経済が発展しようとする時であった。先ず政府がデフレを脱却するための有効な政策を実行することである。安倍政権はいつも頓珍漢な経済政策を実施し,過ちを犯してきた。そのために日本経済は世界で一人負けになってしまった。
菅首相の頭の中には「日本国家」をどのようにするかという「国家概念」がないように見える。常に下を向いて,具体的な「小さな部分」を対象に動いているようだ。「一国の首相」として「日本国の全体的なピクチャー」を描き,「長期的な全体最適」という概念を菅首相に持ってもらいたい。日本政府は前方に開ける広い世界を見ようとしない「広場恐怖症」に罹っている。これでは日本は「21世紀のデジタル世界」には生きていけない。
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