世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1913
世界経済評論IMPACT No.1913

DX時代:基盤教育への活用が期待できる「大学オンライン授業」

平田 潤

(桜美林大学大学院 教授)

2020.10.19

「オンライン」化に踏み込んだ大学教育

 2020年,世界・そして日本に襲い掛かった新型コロナウイルス感染症により,多くの大学は,キャンパスのロックダウンを余儀なくされると共に,授業の「オンライン化」に活路を見出した。

 即ち,パソコンにZOOM等のアプリをインストールし,自宅等で受講可能な,遠隔(リモート)授業を行う,というものである。これは大学教育がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に向けて否応なく第一歩を踏み出した,とも評価できる。現在,春学期に続いて秋学期も基本的に「オンライン授業」(一部は対面授業を実施)が続くなか,各大学/現場のシステム担当者/教員の努力により,様々な創意工夫が実践されている。勿論「オンライン授業」では,できないこと・限界・不便さなどが山ほどあるとしても,現在積極的に議論すべきは,今後「オンライン授業」の利点・長所を,大学教育にいかに取り入れ・反映・発展させていくかであろう。

金融基礎教育と「オンライン」授業

 筆者は大学で金融教育に携わっているが,グローバル経済下で,社会人・ビジネスパーソンに不可欠とされる金融の「コモンセンス」は,現状では十分な水準ではないのが実情である。こうした中,金融教育の重要性が次第にクローズアップされ,金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)のガイドラインを定め(2013年)ている。また同ガイドラインでは,大学時代は「社会人として自立するための能力を確立する時期」として重視された。筆者も2008年(リーマンショックの年)に,独自に「最大多数の最大理解」を目標に,大学生に修得必要と思われる金融プログラムを,「金融基礎力」として提示している。

 今回2020年春学期に,筆者が行ったZOOMによる金融科目の「同時双方向型」授業では,

  • ①授業ソフトにはできるだけビジュアルな資料が有効。紙媒体(書籍)がPC画面に移行した形(電子書籍)のままでは学生の理解度増進面でうまくいくとは限らず,新たなオンライン対応のテキスト(アプリ・動画等)を作成し,活用することが望ましい,
  • ②「金融の世界」についての,基本的な全体像(グランドデザイン)を理解させるチャート・マップ(マインドマップなど)の効果的使用が,教育効果の面で大きな役割を果たした,
  • ③学生とのコミュニケーションでは,メール・チャットにより,双方向かつ丁寧な回答を行うことで,通常の講義より学生の満足感が高められる,

といった経験知を得ることができた。

 「金融リテラシー(金融庁)」や「金融基礎力」といった基本的内容の提示,或いは一定のガイドラインを示しレベルアップを図るタイプの学習では,「オンライン授業」を活用した,キーワード/基本的な内容の「反復学習」により,大きな効果を挙げられるのではないかと思われる。そして「同時双方型」或いは「オンデマンド型」でも,各大学で十分提供が可能である。

大学教育における「基礎・基盤科目」の位置付け

 2000年代の後半では,社会や企業からの大学教育へのニーズとして,様々な基礎力-とくに「社会人基礎力」を求める潮流があり,同時に,全入時代の大学下で,多くの「分数のできない大学生」等の存在がクローズアップされた。これは①大学教育の質やスタンダード確保への要請が高まり,②企業が新入社員に十分なOJT研修を行う余裕がなくなってきた,等の背景があり,「基盤」「基礎」分野の強化(再強化)が叫ばれた。筆者の「金融基礎力」もそうした状況を踏まえ,社会人・ビジネスパーソンとして必要な,金融リテラシー(特にリスク・リターン・ポートフォリオ)を理解し,経済の循環機能ともいうべき「金融」と,上手くつきあうための「知識・活用力」を取得することが目的である。

 近年では,「基礎・基盤科目」強化の流れは,少子高齢化が亢進し若年層への求人が高まる中でトーンダウンしているが,基礎力のレベルが順調に上昇し,十分改善がなされたと,楽観する訳にはいかない。現実として,多くの大学は,依然として,基礎・基盤教育に多くのエネルギーを割いている。これは学生の学力の底上げや将来(就活)への準備/対応と共に,昔学んだが(興味がない,受験に必要でないので)忘れた,といった部分を活性化することも大事な目的である。

 また各大学で,高校から大学教育へのスムースな移行を図るためにも「入学時・初年次教育」が重要視されており,その有力な手段として,E-Learning (対面型でなく,パソコンやスマホを通じて,自習用教材を学ぶ)が活用されている。しかしあくまでも「事前学習」「補習」「(サマースクール的な)「準備学習」的扱いが多く,教育的効果の一層の増大が課題となっている。

「オンライン授業」の将来時の活用

 筆者が属する大学で,学生有志が,春学期のオンライン授業に対するアンケートを実施したが,「オンライン授業」のメリットとして,(a)通学時間が無くなり,早朝・夕刻の授業が履修し易い,(b)時間の融通性が可能となった,(c)科目の選択の幅が広がった(とくに他学部科目の学習可能),(d)メール・チャットを使うことで,質問し易くなった,などのコメントが集約されている。

 筆者の経験では,オンライン配布資料・データや講義は繰り返し視聴可能であり,基礎的な概念やキーワード修得に効果が期待できる。さらに今後「オンキャンパス」と「オンライン」とを組み合わせて活用(ハイブリッド型)にしていく,つまり①ベーシックな内容を繰り返し学ぶとより効果が高まる「基礎学習」は,「オンライン授業」により,②「キャンパス」では,対面のコミュニケーション・コラボレーションを行うことによって,デザイン力,プレゼン力,創造力を鍛える場として活用する,といった棲み分け・使い分けも可能かと思われる。

オンライン科目の大学カリキュラムへの組み込み

 基盤科目(入門の入門)として,大学卒業時までに繰り返し学ぶと効果がある科目としては,「社会人のための数学・数字(中学・高校の学び直し,SPIなどへの対応まで),「社会人基礎力」「金融基礎力」などがその一例である。基礎力強化の必要性は,大学によって様々であり,大学のカリキュラムもそれぞれの大学の実情によって決められるのはいうまでもないが,基礎力強化がとくに必要と考える大学については,将来的には,大学カリキュラムへの「オンライン科目」の本格的な組み込みも検討すべきであろう。

  • ①「単位化」:努力目標でなく,到達ゴール(単位取得)を設定する必要がある。
  • ②「選択必修化」:「基礎力」「オンライン科目」の重要性を強調する観点から必修化(選択可能)。
  • ③「フレックスな履修年次」:履修年次は1~3年次と幅をもたせる(初年次への科目配置の集中は学生の負担を増大させ,モチベーションを損なうおそれがある。基礎科目の修得は,基本的には卒業時にまでに達成できればよい)。
  • ④「集中講義」:授業時間については,キャンパス事情にとらわれず,夏季・春季の集中講義や土曜日(朝・夕)も活用できる。

といった展開も検討すべきでは,と思われる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1913.html)

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