世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1876
世界経済評論IMPACT No.1876

中国の食糧不足はあるのか?

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2020.09.14

 先月(2020年8月),中国社会科学院は,第14次五カ年計画(2021−2025年)の終わりには1億3000万トンの食糧不足が発生すると発表して,話題を呼んだ。報道ではどうしても「食糧不足」という言葉が先走りしてしまうので,少し詳細にこの報道を読み解いてみよう。

 まず,中国の食糧(中国語でいう「糧食」)の概念を整理しておこう。食糧はお腹を満たす主食を指し,三大食糧として,小麦,米,トウモロコシがあげられる。中国の場合,これら穀物類をはじめとして,芋類や豆類も含む。

 中国新聞社のインタビューに答えた農村発展研究所の杜志雄氏(中国新聞網2020年8月21日)や他の報道(小白読財経2020年8月24日)を総合すると,この食糧不足の重要な意味は大豆にあるようだ。2012年より8年連続で中国の食糧生産量は6億トンを超えており,一方で中国は毎年1億トン以上の食糧を輸入しているのが現状である。ただ,2000年以降食糧自給率は徐々に下落しており,それをもたらしているのが大豆の輸入である。大豆の輸入は急激に増加しており,現在大豆の85%~90%(8851万トン~1.1億トン)を輸入に頼っている(ちなみに中国の大豆輸入量は世界輸入量の60%を占めており,ブラジル,米国,アルゼンチンでほぼまかなわれている)。2019年の大豆の輸入は全食糧輸入量の70%を占めているため,食糧不足という現象は,大豆の国内生産の減少が作り上げているといってもよい。またそもそも輸入大豆は精油や飼料用であり,口にする食糧自体にすぐに影響がでるわけでもない,ともいう。

 とはいえ,農業を取り巻く環境は今後も厳しい(Wang 2020)。一つは都市化である。現在の都市化率は60.6%であり,毎年1%前後のペースで都市化が進んでいる。社会科学院も2025年までに中国の都市化率は65.5%に達すると予測しており,14億人の5%,すなわち約7000万人が都市住民になると考えられる。社会科学院は,今後5年間で8000万人以上の農村人口が都市人口に組み込まれると推定しており,農業労働者の割合は約20%に低下するという。

 もう一つの問題は高齢化である。2018年現在中国の65歳以上の割合は16.8%(中国統計年鑑2019年版)であり,実は国連の予測よりも7年以上も速いペースで高齢化している。社会科学院によれば,60歳以上という定義ではあるが,これが2025年には農村では25%以上になるとしている。農村では出稼ぎで若者が都市に出てしまうために,とくに高齢化が進みやすいとみていいだろう。

 農業人口が減少し,農業従事者が高齢化する,というのは日本でも同じだ。中国の場合は,都市化が急速に進んでいるため,農村の農業人口の減少と農業人口の高齢化とが同時に進むことになる。これまで中国の食糧確保は国家安全保障上重要な位置付けにある。安定した食糧供給のためには,農業の生産性向上が今後必要になっていくだろう。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1876.html)

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