世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1859
世界経済評論IMPACT No.1859

中国経済のV字型回復は持続するか

童 適平

(獨協大学経済学部 教授)

2020.08.31

 7月17日に,中国国家統計局が発表した今年第2四半期のGDP統計が世界を驚かせた。対前年同期比で第1四半期の−6.8%から3.2%へ大きく転換し,見事にV字型回復を実現した。この結果,今年の前半(1~6月)は,前年同期より−1.6%になり,下げ幅が大きく縮小した。

 経済回復の要因は何だろうか。

 国家統計局が発表した固定資産投資と消費財販売額及び税関の輸出入額の推移を見てみよう。いずれも前年同期比で,固定資産投資(農家投資を除く投資規模が500万元以上のプロジェクト)は今年の1~2月の−24.5%から6月の−3.1%へ,消費財販売総額は同−20.5%から−1.8%へ,輸出入も税関統計ではそれぞれ−15.9%と−2.4%から4.3%と6.2%へと,急速に下げ幅を縮め,もしくは増加に転じた。しかし,前年同期比1~6月の累計では,固定資産投資,消費財販売額,輸出と輸入はそれぞれ−3.1%,−11.4%,−3.0%と−3.3%であり,減少状態が依然として続いていることが分かる。

 ここまで来て,固定資産投資と消費財販売額及び輸出入のそれぞれの下げ幅はGDPの下げ幅より大きいことに,疑問を持つかもしれない。固定資産投資も消費財販売額も月次データ(1月は報告されない)で,統計方法も統計カテゴリもGDP統計と違うので,両者が不可比であることを一言言っておきたい。これらのデータ集計が速いメリットがあり,経済予測の先行指標として使うのに便利である。

 引き続き,固定資産投資と消費財販売額の中身をみてみよう。

 1~6月,民間による固定資産投資額は157,867億元で,前年比−7.3%であったが,政府による固定資産投資額は123,736億元で前年比2.8%の増加であった。産業別を見ると,固定資産投資の落ち込みが最も大きいのは製造業で,6月現在,依然として11.7%の減少に対して,電気・ガス・水道業は18.2%の増加,鉄道運輸業も2.6%の増加であった。つまり,民間を中心とする製造業の投資回復は遅く,政府を主とする社会インフラ―投資の回復は速い。固定資産投資の回復を支えたのは政府によるインフラ投資の増加であると言えるであろう。

 消費財販売額の落ち込みは縮小しつつあるが,商品別はまちまちである。自動車やアパレル製品の販売額は大きく減少した一方,食品や医療品,通信機器などの販売額は逆に増加した。業種別は,飲食業は大きく落ち込んだが,パンデミック解除とともに,リバウンドした。6月の前年同期比は1~2月の−43.1%から−15.2%まで下げ幅が大きく縮小した(1~6月はまだ−32.8%)。ネットショッピングの売り上げは急増した。1~6月の対前年同期比は14.3%増加し,全部消費財販売額の25%強を占めるようになった。

 このV字型回復が続くだろうか,どこまで続くだろうか。

 以上のように,これまで経済の回復を支えた主な要因は輸出入と主として政府による投資であるので,これらの要因が引き続き働くか,それに民間消費(消費財販売額)がどこまで回復するかはそのカギを握ると思う。

 まずは輸出入である。世界各国のコロナ禍の広がりによる経済のダウンと米中関係の現状から考えて,小さい改善があっても,大局を変える期待はあり得ないであろうか。

 次は政府による投資の増加である。引き続き拡大することは可能であるが,民間投資比率の更なる低下になる。今年前半(1~6月),民間投資比率はもう既に56%まで低下したが,2012年~2018年のそれは61%~64%の間であった。輸出や民間消費があまり期待できない中,民間投資拡大の兆しは,今のところ見られない。

 民間投資比率の低下(=政府投資比率の向上)は更に“国進民退(国有化が進む)”を推し進め,投資構造を歪め,投資効率を低下させるだけでなく,財政収支の悪化も拡大する。対前年同期比今年前半(1~6月),一般予算収入は10.8%の減少に対して,支出は5.8%の減少に止まり,政府基金予算(特別会計に近い)収入の1%減に対して支出は21.7%増となった。

 消費はどうなろうか。消費のカギを握るのは可処分所得と雇用である。今年前半(1~6月),一人当たり名目可処分所得は2.4%増加したが,物価上昇率を除いた実質所得は1.3%減であった。パンデミックによる企業経営悪化の当然の結果である。パンデミック解除後,多少改善されたが,1~6月,工業企業(営業収入2000万元以上)の利潤は前年同期より12.8%減少の状態が続いている。

 雇用の将来もそう明るくはない。今年1月と2月,都市部の失業率は5.3%と6.2%に上昇し,6月に5.7%に下がったが,7月に新規大卒(空前の874万人)が加わると,20~24歳年齢層の失業率は3.3ポイント上昇する(国家統計局スポークスマン2020年7月記者会見)。2019年,同じ都市部の失業率はおおよそ5.0%~5.3%であったが,2018年のそれは3.8%であった。この都市部の失業率統計が分かりづらいが,失業率が上昇していることが明白である。李克強首相がやっと考えだした“屋台経済”からも雇用と消費の厳しさの一端が窺えるのではないであろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1859.html)

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