世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本経済の再生の道
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.08.17
経済思想・経世済民
先ず経済を考え,経済政策に携わる人は,どのような日本の国にするのかの「理念」が必要であり,経済思想,倫理を持たなければならない。しかし,日本では,政界も産業界も,1985年からグローバル化に走り出してから,「経済思想」を捨ててしまった。多国籍企業は,自己の利益を上げるために,倫理も道徳も捨て,国民国家の繁栄は自分には関係ないという態度で動いている。非正社員制度を作り,賃金を削減し,世界で最も賃金の安いところで工場を造り,国にあまり税金を払わない。
経済とは「経世済民」で,国を豊かにし,国民を富ますことであるが,この考えが政治家も産業界にもなくなっている。今の政府と官僚は,自分の省の利権を拡大しするために働き,自分の出世のためなら公文書も改竄し,嘘もつく。政治家には自分の選挙のことしか考えていないものがいる。この国のリーダーは,「今だけ,カネだけ,自分だけ」になっている。これを正さなければならない。
経済発展の原則
今日の経済発展にはある原則がある。先進国のGDPの60%から70%が「消費支出」であるので,国民が豊かになり,生産された商品を買って消費しなければその国の経済は発展しない。そのためには賃金を高くし,国民が働く多くの職場を創ることである。そのためには,科学技術開発力を強化し,新しい産業を創造することである。社員を大切に,優遇する企業は利益も出し,発展している。そして国民が豊かな国は発展する。そうでなければ日本のように経済は停滞する。
賃金を上げる
日本経済再生を考える上で,先ず考えるべきことは,国民の所得を上げることである。そのためには「賃金」を上げる。GDPの拡大には国民大衆が生産された商品を買って消費してくれることが重要である。消費支出が伸びないということは,国民大衆が金を持っていないか,買いたくなるような商品がないかである。自動車離れと言われているが,若者は自動車を買いたいが金がないと言っており,結婚もしたいが金がないので出来ないと言っている。日本政府は昨年10月その国民の消費支出にペナルティをかける消費税を増税してしまった。
安倍首相は再三財界に賃金を上げようと言ってきたが,全く上がっていない。首相の口先だけでは賃金は上がるものではない。日本は安倍内閣になって賃金は殆ど上がっていなく,実質賃金は下がっている。テルテル坊主を軒先につるしても雨はあがらない。賃金を上げるような具体的な環境と条件を施行しなければならない。労働組合を育成し,「中央労使委員会」を設置する。国としても最低賃金の引き上げに力を入れなければならない。そして賃金を下げるような「非正規社員制度」を廃止することである。同時に国内に新しい職場を多く創造することである。海外工場ではない。
賃金を上げると,企業は生産性を上げなくてはならなくなる。これにより企業は生産性向上投資をすることになり,イノベーションに火が付くことになり,産業は活力をつけ,経済は発展する。だからまず賃金を大幅に上げることである。
アメリカの暴動問題,人種差別問題は,その根は国民大衆の貧困にある。トランプは彼が大統領になってから,それまで下がっていた労働者の賃金を年3%ぐらいの率で上げてきているが,それでもまだ絶対値として賃金,所得が低い。トランプは最低賃金を上げながら,賃金をさらに上げようとしている。
ヘンリー・フォードは,自動車生産の「ムービング・アセンブリー・システム」を開発し,大きな利益を上げた。彼は社員の定着をよくし,社員の士気向上のために賃金を大幅に上げたが,結果的にフォードの社員がその高い賃金で自社のModelTを買えるようになった。これがアメリカが「高度大衆消費社会」になって,大発展した理由である。社員を大切にしている企業は業績が高く,伸びている。国の経済も国民が豊かなところが発展している。
イノベーションによる第二の投資
経済が疲弊した時,そこから立ち直るために財政投資をする。ケインズの経済政策理論で,経済の崩壊の止血をするためには,「穴を掘り,またそれを埋め戻すような作業」をさせ作業者に賃金を払う。ケインズは1929年のアメリカの大恐慌からの脱出のために,財政投資を推奨し,ルーズベルト大統領が「ニューディール政策」により膨大な資金投入を投入した。TVAというダムと水力発電を建設したが,ケインズはそれでも足りないと言った。1929年の大恐慌からアメリカが大不況から回復し,発展するには第二次大戦のための軍事産業の拡大が必要であった。幸い軍事産業の勢いで戦後のアメリカ産業にイノベーションの火がついた。自動車産業,石油産業,化学産業,繊維産業,航空産業,電子産業などが次々と開発され,アメリカ資本主義の黄金時代を創り上げた。1940年から1950年にかけてアメリカは「タームローン」という名での国債を発行して,アメリカ州間高速道路などのインフラの建設をし,これがアメリカ経済の拡大に繋がった。
単に経常収支に乗るだけの財政投資ではなく,イノベーションにより社会に価値を加えるような産業活動,新しい売上・収益になるような財政投資を進めなければならない。乗数効果の高いプロジェクトへの「第二の投資」である。こういう投資であればMMTの論理が示すように,いくらでも国債を発行しても良い。
今日本政府がやっているのは止血の「第一の投資」であるが,同時に「第二の投資」の計画を策定しなければならない。その戦略的なプロジェクトの計画を策定し,それを実行しなければならない。
疫病によるイノベーションの促進
15世紀ころモンゴル帝国の部隊がヨーロッパに攻めてきたときペスト(黒死病)が持ち込まれ,それが世界中に伝染していった。ヨーロッパの人口はペストで25%減少した。イギリスのペストによる被害は最も悲惨で,人口の半分が死亡した。そのために深刻な人手不足が起こった。羊毛産業は集約化が進み,農奴,農民が集められたことにより彼らが団結して,封建領主と交渉し,農奴の制度と無給労働を解体させ,賃金を引上げさせた。そして独立自営農民(ヨーマン)が生まれた。インドからキャラコ繊維の衣料が輸入されたが,所得の増えた農民もそれを買って消費した。そこでインドから輸入していた衣料を国産化しようということになった。イギリスの高い賃金のために,人手ではなく機械化による機織り機を開発し始めた。蒸気エンジンを創り,それで自動機織り機を開発して近代繊維産業が拡大して,これがイギリスの産業革命になった。これでイギリスは繊維・衣料の輸出大国になり,金融資本と共に世界経済を制覇して,覇権国の座を築いた。疫病のペストがイギリスの産業革命を起こしたのである。イギリスのビール産業もペストの中で生まれたという。
今コロナで世界の経済構造は大きく変わろうとしている。もはやこれまでの過去には戻らない。アフター・コロナでは,これまでとは違った新しい世界になる。日本はこうした時代の大きな変化に対応するのが苦手であるが,しかし日本が生き抜くには,イノベーションにより果敢に新し世界を自分で創っていかなければならない。
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