世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1792
世界経済評論IMPACT No.1792

日本の緊急経済対策の具体化

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.06.29

 5月4日に,日本のコロナウイルス感染災害の状況を見て,安倍首相は「緊急事態宣言」を5月31日まで延長すると宣言した。政府は,その追加経済対策に対して「財政の制限があるので」と言いながら,安倍首相は,とにかく「追加の対策を検討する」と言った。

 しかしこれまでの政府の態度からすると,追加対策と言っても「真水」は大したものにはならず,効果のある対策にはならないであろう。財務省が言うほど日本の財政事情は悪いわけではない。このコロナウイルス災害対策に対しては,日本の産業界は大変消極的である。経団連は動かない。むしろ被害者であるような顔をしている。

 日本の企業は現在460兆円以上の「内部留保」を持っている。長いデフレのためか,投資もしないで金を握っている。資本主義経済では,誰かが金を握り,貯めこむのは良くない。金はモノと共に市場を巡らなければ経済は発展しない。日本の産業界がその金を有効に使えないようであるから,日本国にとって,この「内部留保」を生かす道を提案する。

 その前に,内部留保の460兆円はどうして生まれたのかを考えてみよう。それについて「労働分配率」を見てみる。企業の生産活動で生まれる「付加価値」は,資本側に属するものと仕事をした労働者側に属するもの(これは給与として労働者に支払われるもの)とに分かれると見られている。労働者側のものが労働分配率で表される。日本の資本金10億円以上の企業では,1998年までの労働分配率は65%ぐらいであったが,1998年以降急速に労働分配率は下がっていき,2007年には54%弱に落ちた。これは企業が非正規社員制度により,非正規社員を大量に増やしたことによる。正規社員に比べて非正規社員の賃金は低い。このために労働者の取り分が大幅に減り,労働分配率が下がった。2008年以降は60%ぐらいになっているが,それはリーマンショックで企業の業績が悪くなったためであるが,労働分配率の構造は変わらない。労働者の賃金を企業がピンハネしているようにも見える。

 日本の産業の労働生産性は,2001年から2010年まで10%ぐらい伸びているが,「単位時間当たり給与総額」(実質賃金)は,その間,3%ぐらい下落している。先進国では,「労働生産性」と「実質賃金」の動きは同じ比率で動くものであるが,日本ではそうなっていない。つまり労働生産性が10%上がれば,労働者の実質賃金も10%上がるのがノーマルである。

 ある計算によると2001年から2018年の間に企業の人件費が82兆円削減され,その分「内部留保」が増大した。

 460兆円には,もう一つ要因がある。日本企業の法人税率は1997年までは37.5%であったが,政府はこれを段階的に引き下げ,現在では23.2%になっている。同じ資料によると,2001年から2008年の間に法人税減税は46兆円削減された。その分「内部留保」が増えた。

 アメリカでは1930年年代のニューディール政策として,「内部留保課税が」が導入された。それは配当を支払わず「合理的な必要なし」に留保された利益に20%課税されている。これは現在まで続いている。台湾や韓国でもその制度が採用されている。

 私の提案はこうである。

 この日本企業の内部留保の460兆円の半分「230兆円」を「50年国債」にし,これを日本企業が引き受け,買うのである。勿論政府は企業に対してその国債の金利を払う。そしてその購入した国債を資産として企業はバランスシートに載せ続けることを政府・財務省は認める。

 政府は,この230兆円を財源とした「適切な経済対策」を創り,このコロナ災害・大恐慌を克服し,日本経済の再発展を進めるということである。こうすると,企業のこの内部留保は立派に日本経済の発展に貢献することになる。

 3月1日ごろ,トランプは安倍首相にたいして「君たちは我々を助けないといけない。我々は多くのカネを払っている。君たちは裕福な国だろう」と言ったという。トランプに言われるまでもなく,日本は「適切な経済対策」を創り,実行して,日本経済を早急に立て直さなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1792.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム