世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1781
世界経済評論IMPACT No.1781

Covid-19と中国の都市化

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2020.06.22

 中国の農民工は,都市化(インフラ建設や都市定住)の推進力である。2019年の常住人口都市化率は60.60%,戸籍人口都市化率は44.38%である。国家新型都市化計画の2020年の目標はそれぞれ60%,45%であり,常住人口の都市化についてはすでに目標を達成したといってよい。一方,戸籍人口都市化率は目標にはまだ届いていない。とはいえ,毎年約1%ずつ上昇しているので,数値的には来年目標を達成することとなるであろう。

 しかし,今回のCovid-19による経済悪化は都市部にいる農民工の職を奪うこととなった。農民工の戸籍転換には安定した職や住居が必要なことを考えると,最終的に農民工の都市での戸籍転換はさらに難しくなることが予測される。本稿では失業から都市化のダメージを推測してみたい。

 5月29日,第13期全人代第3回会議が閉幕し,李克強首相の記者会見が行われた。GDP成長率の目標に注目が集まったが,李首相が強調したのは,9億人の就業問題であった(国家統計局の発表によると全国の就業人口は7.7億人)。これは,Covid-19の感染症対策として都市封鎖を行った結果,各地の経済が大きなダメージを受け,多くの人々が失業したためである。政府は,都市部で新規に900万人の雇用を創出し,失業率を約6%に保つことを公約とした(HSBC投信)。

 国家統計局の全国都市調査失業率によると12月の5.2%から1月5.3%,2月6.2%に上昇した。その後3月5.9%,4月6.0%と多少落ち着いている。都市就業者数が4億4000万人いることを考慮すると,1%の失業率の増加は440万人程度と推測される。報道によると,3月末には230万人が失業手当を受け取っているので,「公式」にはその程度の失業で済んでいるともとれる。

 当然のことながら,多くのアナリストたちはこの数値を信じていない。各アナリストの推測数値を取材したTang(2020)から中国の失業率の状況をみてみよう。まず今年1,2月で大企業(2千万元以上の利潤)では500万人が仕事を失い,その後2000万人が中小企業で失業したという。企業の多くが都市部にあることを考えると,失業率は20%程度になる可能性がある。実際,Chou(2020)の取材によると,中泰証券は,失業率20.5%,人数にして7000万人と推計している。

 中国全土ではどうであろうか。望正資産管理(香港)有限公司(Upright Asset)の主席エコノミスト,劉陳杰によると,2億500万人が摩擦的失業(働きたいが仕事に戻れない)にあるという。中国全体で都市農村を合わせて7億7千万人の就業者がいるが,そのうち約1/4が仕事を失ったことになる。

 大部分の失業はサービス産業で起きている。サービス産業の雇用状況は消費者の状況に強く依存している。Covid-19の拡大により1億8千万のサービス部門の仕事が消えたと計算されている。だからといって工業部門が安心かといえばそうではない。東莞,珠江デルタ地域の製造業拠点では,輸出用注文が減り,多くの工場が減産と人員調整を行っており,同じく1億8千万の仕事が危機にあるという。

 これらCovid-19で大きな影響を受けたのは間違いなく都市に出稼ぎにきている農民工である。現在都市部には,約2.9億人の農民工がいる。各種報道を見てみると,サービス産業ではお客さんが来なくなることによって自宅待機から失業へつながるケースも多く,製造業部門では一か月の給与がかなり削られることによってなんとか雇用が続いているというケースもある。

 1%の戸籍人口の都市化には14000万人が都市戸籍を習得する必要がある(注)。以上の推計からみると,農民工の1億から2億の職が不安定になったと言っていいだろう。その意味では,今回の都市封鎖は都市化の推進に悪影響を与えたといえる。

[注]
  • 厳密には,都市化は県が市に昇格するなど行政区画の変更によっても行われる。
[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1781.html)

関連記事

岡本信広

最新のコラム