世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナウイルスとグローバリゼーション
(拓殖大学 教授)
2020.03.30
2020年3月6日より14日まで,マレーシアとシンガポールに企業調査のために赴いたので,その間に見聞したり,その前後に入手したりした情報に基づいてグローバリゼーションの影響を考えたい。
マレーシアでは,1月26日に初めて3人の感染者が確認された。3月21日時点で1,183人が感染し,3人が死亡している。
3月1日にムヒディン首相が就任したばかりで,コロナウイルス対策が政権の試金石となった。彼は,3月16日にコロナウイルス対策に関する方針を明らかにしたが,それは,3月18日から31日まで,外国人の入国とマレーシア国民の出国を禁止するという厳しいものであった。国民にとっては予想外の厳しい措置であり,経済的な打撃が大きいだけではなく,政権への不満が高まる恐れもある。
マレーシアはイスラームを国教としている。そのモスクにおける活動がコロナウイルスの感染を促進したケースが注目されている。2月27日から3月1日まで,クアラルンプール郊外のスリ・ペタリン・モスクでイスラームの国際的な一宗派であるタブリグの集会が開催された。これにマレーシア国内から14,500人,国外から1,500人の合計16,000人が参加した。3月14日時点で,その中の77人の感染が明らかとなっている。
タブリグは,インドのイスラーム信徒が1925年に創始したイスラーム復興運動であり,最大の特徴は宣教・布教を積極的に行うところにある。イスラームには本来宣教・布教という概念や活動はない。タブリグは南アジアを中心に国際的なネットワークを持っており,マレーシアでの集会終了後,国外に移動した信徒も多い。
この問題は,イスラームを信奉するマレー系国民とそうではない中華系,インド系国民との対立を助長するかもしれない。それはさらにムヒディン政権への批判につながりかねない。
シンガポールで初めての感染者が確認されたのは,1月24日であった。3月21日時点で感染者は432人,死亡したのは2人である。
シンガポールで初めての死者が出たのは3月21日で,そのうちの1人はインドネシア人であった。彼は肺炎の治療目的でシンガポールに渡航しており,インドネシアでは新型肺炎とは特定されなかったと報道されている。しかし,裕福な華人が新型肺炎にかかったことが分かり,シンガポールで治療すべく速やかに渡航したというのが,一般のインドネシア人の見立てである。
亡くなったインドネシア人の出国の是非が問われるところであろう。インドネシアの医療に信頼がおけないことは問題であり,人権的な観点からはいずれの国で治療を受けることも正当化されよう。しかし,公衆衛生上妥当な行動であろうか。
シンガポールは3月22日,翌23日深夜以降外国人の入国を禁止すると発表した。シンガポールにはマレーシアから毎日30万人程度の労働者が通勤している。彼らの一部はマレーシアが国境封鎖措置を取った3月18日直前にシンガポールに駆け込んでいずこかに滞在している。その住環境の衛生状態が懸念されている。
シンガポールの労働力のほぼ1割がマレーシアから通勤する労働者によって構成されている。シンガポールへの外国人の入国者数は年間2000万人近く,人口の4倍にあたる。このように開放的な小規模の先進国の防疫措置は,日本などと違ってきて当然である。
状況が日々刻々と変わる中で,まとまった結論を示すことは難しいが,少なくともマレーシアとシンガポールは足並みをそろえて,より協調的な対策をとるべきであると言うことはできよう。
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