世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1645
世界経済評論IMPACT No.1645

「健康寿命」に対応可能な「資産寿命」を考える

平田 潤

(桜美林大学院 教授)

2020.03.02

 現在(2020年3月)日本では,新型コロナウィルス〔による肺炎〕が,人々に,特に高齢者に重大な脅威をもたらしている。そして冬季こそ,肺炎やインフルエンザといった,高齢者の生命/健康に甚大なダメージをもたらす「感染症」が流行るリスクが高く,その危機予防・危機管理については,本人・家族・医療機関/介護・福祉施設,そして官・民〔関係省庁や企業〕を挙げての現場本位かつ多重的な対策・施策を実施・維持することが相乗効果をもたらし,抑止力・対応力を向上させられると考えられる。

長寿社会の到来

 さて,これまで日本人の寿命(「生命寿命」)は,順調に伸びてきており,日本は世界でも有数〔2位〕の長寿大国となっている。総務省「人口統計」によれば,2018年現在,生命寿命(=平均寿命〔ゼロ歳時における平均余命〕)は,男性[81.2才]女性[87.3才]である。また「国立社会保障・人口問題研究所」の「日本の将来人口推計〔2017年〕」によれば,日本人の生命寿命は,今後2065年には,男性85才,女性91才に伸びると予想されている。

 そして同じく「将来推計」では,1995年時点で60歳が95歳まで生存する割合は14%であったのが,2015年時点には25%〔4人に1人〕に達すると予測しており,いよいよ「生命寿命」は,人生100年時代が展望可能となってきた。一方で,「生命寿命」と同様に重視されている「健康寿命」(日常生活に制限無く暮らせる期間)についても,男性72.14年,女性74.79年であり,令和元年の高齢者白書によれば,2010年~16年の健康寿命の延びは,男性・女性ともに,生命寿命の延びを上回っている。これまで,「元気な高齢者」の数は堅調に増加してきているといえよう。そして現在,日本の「65歳以上=高齢者」人口は3,558万人であり,全人口(1億2,644万人)の約3割(28.1%)を占め〔世界第一位の高齢化率〕ているが,2045年には4,000万人に達するという。

高齢者社会の経済面でのリスク

 昨年,高齢者が老後の生活を送るにあたり,豊かさを支えるに必要とされる資金とその源(年金+α)が話題となったが,「人生100年時代」を展望する以上,その経済面の基盤は非常に重要であろう。金融庁は,以前(2018年7月)「高齢社会における金融サービスのあり方〔中間的なとりまとめ〕」報告の中で,高齢社会のリスクとして,①資産寿命が生命寿命に届かないリスク,②老後不安による過度の節約,等をあげている。背景として,過去20年で,高齢者世帯が保有する金融純資産の伸び悩み,等を指摘している。しかし現在のマクロ金融環境が持続し,金融資産構成で超低金利の預貯金が過半を占めるなかでは,顕著な改善を期待することは難しい,と思われる。

「生命寿命」と「資産寿命」のミスマッチ

 このように長寿社会で俄かにクローズアップされてきたのが,「資産寿命」である。「資産寿命」とは,文字通りには,「資産が無くなってしまう〔枯渇する〕までの期間」を指すわけであるが,多くの人は一生の間に全ての資産を使い切るわけではない(日本では一般に妻子・子孫への遺産などの資産を残すことへのインセンティブが高いとされる)。

 そこで現実的には資産寿命とは,「生命寿命に対応し,高齢者の生活を十分支えるに足る資産が,存在している年数・期間」と考えられる。

 さて人の寿命である「生命寿命」だけでなく,健康で生活できる期間「健康寿命」が重要であるように,「資産寿命」についても,日本の場合には,人々の遺産指向や,節約性向を考慮し,さらに実際に資産を実質的にマネージできる期間についても重視する必要がある。

 そこで資産寿命を考える場合,十分な心身の健康維持が可能な「健康寿命」に対応して,「金融資産を自らの判断で,管理・運用・処分する機能を保持している期間」についても,考慮する必要があろう(ここでは一般的な資産寿命を「資産寿命〔グロス〕」と呼び,後者を「資産寿命〔ネット〕」と仮称したい)。

 さらに日本が今後,「資産寿命〔ネット〕」を延伸していくについては,様々なボトルネックを抱えている点を注視する必要がある。なかでも①資産自体の伸び悩みの問題,②高齢者の行動や,認知機能等が左右する「高齢者金融資産マネジメント」へのリスク,③資産の有効活用への抑制といった,構造要因はいずれも深刻なものである。

つまり,

  • ①日本の超高齢化に伴い,資産の高齢化(日本家計金融資産の3分の2を60歳以上が保有する)が進む中,資産運用面では,米国等先進国比で低調な成果〔平成年間〕しか挙げられていない。
  • ②高齢者の認知・行動が抱えるリスクについては,疾病(認知症など)や障害を持つ高齢者だけでなく,(最近の高齢者自動車事故多発による免許返納問題や,各種特殊詐欺の被害続発等からも見られるように)通常の高齢者の認知・判断機能の低下・衰えや,さまざまなバイアスの存在がクローズアップされつつある(金融老年学)。
  • ③また資産の有効活用を巡っては,保有金融資産の有効な取り崩しについての選択肢が多くなく,高齢者のための信託制度や後見制度の活用は勿論,複雑な制度の簡易化や認知度もかなり低い。

などが指摘される。

 こうしたなかで,金融機関としては,いかに「資産寿命」を延伸させていくか,支援していく姿勢が問われよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1645.html)

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