世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
G20議長国としての日本
(杏林大学総合政策学部 准教授)
2019.12.23
11月23日に名古屋においてG20外務大臣会合が終わり,日本の議長国としてのG20イヤーが無事に終了したといえる。筆者は,同月下旬にオーストラリアのブリスベンにおいて「豪日ダイアローグ」という会議が開催され,出席させていただいた。今年で8回目を迎える同ダイアローグは,日豪間を取り巻く課題を日豪の研究者と政策担当者が共に討議する1.5トラック形式で行われており,豪州側は,G20に関わる外務省の実務担当者や大学およびシンクタンク関係者が参加していた。今年度のダイアローグにおける全体テーマは日本が議長国を務めたG20についてであった。オーストラリアはG20の参加国であり,2014年に議長国を務め,「創造的なミドルパワー外交」の基軸としてその戦略的な役割を重視している。今年のG20において議長を務めるにあたり安倍晋三首相は「世界が直面する様々な課題の解決に日本が世界の真ん中で,リーダーシップを発揮する」とコメントをしていた。米国と中国の対立が大きな影を落とす中で開催された同会議において,果たして日本はその役割を果たすことができたのであろうか。豪日ダイアローグにおける豪州側の反応は総じて好意的であり,世界情勢が厳しい中において日本は議長国として成果を残すことに貢献したという印象であった。
G20首脳会合は,周知のとおり2008年の世界金融危機を機に開催されるようになり,その後の危機を封じ込め,より深刻な事態の発生を食い込めることに寄与したといえる。特に,保護主義的な圧力が各国で高まる中で,G20参加国は市場開放を維持しつつけるとともに,新たな保護主義的措置を設けないことを宣言し続け,世界が保護主義と闘う姿勢を示し続けた。他方で,2018年のアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20首脳会合において,同会合が始まって以来含まれていた「保護主義と闘う」という文言が,米国の強い反対により盛り込まれなかった。本年の日本におけるG20首脳会合においても,結果的に同文言を入れることはできず,米中間の対立の構造に一石を投じることが出来たとは言い難い。そのような中でも,日本の議長国としての役割が評価された点はいかなる理由があったのであろうか。
その背景として,日本が議長国になる前段階に積み上げてきた基盤が重要であったと考えらえる。日本は,世界的に保護主義が跋扈する中で,G20に先駆けて,日EU経済連携協定(EPA)やTPP11などを次々にまとめ上げた。日本は自由貿易の旗手として,自由で公正なルールに基づく通常枠組みを維持し,発展させることを主張し,米国が問題視する市場歪曲的な産業補助金を撤廃させていくことなどにより,公平な競争条件を確保していくこと強く訴えるようになった。米国が,多国間交渉を否定し,二国間交渉で問題を解決する姿勢に転ずる中,日本は現実的な解決方法を選択した。例えば,世耕弘成経済産業大臣の発案で始まった日米欧3極の貿易大臣会合は,当初,同会合における米欧間の雰囲気は険悪であったようだが,これまで5回開催され,現在では,米国のライトハイザーUSTR代表も同会合の重要性を認識しているという。会合の中では,産業補助金,強制技術移転,デジタル経済化に対応するルール形成などの議論を行われ,産業補助金などの通報制度の改革については3極が共同提案を行っている。これら提案が,本年のG20の貿易をめぐる議論の土台となったといえる。
また,本年のG20における初の試みとして,通常の貿易大臣とデジタル経済大臣が一堂に会したのが一つの特徴といえる。日本は,2017年のWTO閣僚会合において電子商取引有志連合をオーストラリアやシンガポールとともに立ち上げ,デジタル貿易や電子商取引(EC)の自由化とルール作りを積極的に推進してきた。今年1月に開催した世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)においても,安倍首相がデータ流通(DFFT:データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)のための体制をつくり上げる大阪トラックの開始を呼びかけ,交渉開始の意思を確認する共同声明を有志国で出し,米国や中国を含む77カ国が署名している。このモメンタムが,G20大阪サミットにおける「デジタル経済に関する大阪宣言」につながったと考えられる。
以上のように,日本におけるG20が成功裏に終えた背景には,議長国になることに先駆けて,関係する国・地域および国際機関などとのフォーラムを通じて,様々な種を蒔いてきた結果といえる。米国と中国が対峙する複雑な構図の世界の中で,ある意味,日本だからこそできたことなのではないであろうか。こうしたことを考えると,今後のG20が果たしてどのようになるのか不安を覚えるのは筆者だけであろうか。来年のG20議長国はサウジアラビアであり,2021年がイタリア,2022年のインドと続く。果たしてこれらの国ぐにが,G20においていかなるイニシアティブを発揮し,ビジョンを示すのか期待したい。
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