世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1536

再興日本の経済政策:アベノミクスの正体と執るべき政策

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.11.11

アベノミクスは何であったか

 第二次安倍内閣はデフレを脱却するためと称して,三本の矢という「アベノミクス」を打ち出した。異次元の金融緩和,積極的な財政出動,成長戦略であった。デフレ脱却に対しては,2013年に日銀総裁になった黒田氏が「異次元の金融緩和をやれば2年で2%のインフレになりデフレは脱却できる」と宣言した。しかし金融緩和だけではデフレは脱却できないという経済学の常識どおり,5年続けて金融緩和をしてもデフレは座り続けている。異次元の金融緩和で金利は下がり,銀行はゼロ金利でビジネスが成り立たなくなり,融資がなされてもゾンビ事業を存続させている。10月8日,遠藤金融長官は都市銀行の経営の悪化を銀行の経営能力の問題として,自分で改革せよとはっぱをかけているが,この都市銀行の問題は,日本政府が政策を誤り,銀行の業務を不能にさせたのであり,全くのおかど違いである。いずれにしても政府がやったのは異次元の金融緩和だけで,第二の矢,第三の矢は全く手を付けなかった。そういう意味では,アベノミクスは失敗であった。ただ安倍内閣がやったものは日本の株式の価格を吊り上げたことである。しかしそれは,国民にとって重要な年金基金を使い株式に投資し,同時に日銀が株を買い支えてきたからである。この株高も富裕層にしかメリットはない。いずれこの実体経済から外れたバブルの株価は暴落することになる。

これからの経済政策

 過去40年の日本の経済政策として補助金政策,異次元金融緩和による円安ドライブ,賃金引き下げ政策,大企業優遇措置,輸出第一主義を進めたが,これがイノベーション投資を阻み,日本経済をおかしくした。国がいろいろの助成をすると企業がイノベーションをしなくなる。厳しい状態にして生き残りのために産業自身が合理化,イノベーションへの投資をするような環境をつくることであり,そのような経済政策を進めなければならない。

 とにかく資本主義経済社会は,健全な成長を続けなければならない。グローバル化では国民経済は成長しないし,国民は豊かにならない。

 これからの経済政策は次のような考えのもとに進めなければならない。

  • (1)国民大衆が豊かになることを基準にした経済政策でなければならない。
  • (2)そして国力としての広い意味での国防力の増強を進める経済政策が必要である。
  • (3)外需頼みではなく,先ず日本の内需の拡充を中心に進めることである。
  • (4)イノベーションを興すための経済政策でなければならない。
  • (5)「国益」とは何かを明確にして,国がやるべきことと民間がやるべきことを明確にすること。
  • (6)グローバル化の行き過ぎを是正すること。

デフレ脱却

 先ず22年間も続くデフレから脱却することが先決である。日本のGDPは500兆円レベルで伸びていなく,内需は委縮している。長いデフレは日本を鬱にしてしまい,国民の気力を喪失させた。企業も国民も経済の先の見通しが悪いので,投資ができないし,消費もしない。企業の社員も鬱になり,余計なことはしないで,上から言われたことだけをやっている。経済が衰退すれば国の文化も衰退する。この日本のデフレは日本にとっては緊急事態であり,そのための経済政策を実行しなければならない。

 異次元の金融緩和ではデフレ脱却はできないことを政府と日銀はやっと分かってきた筈だが,それでもまだ続けている。設備投資をしたい,研究投資をしたい,合理化投資をしたいという資金の需要がないところでいくら「異次元の金融緩和」をしても意味がない。

 デフレから脱却し,内需を拡大するには二つの道がある。

緊縮財政主義からの脱却,適切な財政投資の実施

 一つは,大型の財政投資をすることである。GDPの成長と財政投資を含めた政府支出とには強い相関関係にある。実のある財政投資は経済成長をもたらし,デフレを脱却する。国債発行の法的基準を改正し,「建設国債」以外に,「投資国債」,「インフラ増強国債」,「教育振興国債」,「科学技術振興国債」などをつくることである。日本の社会インフラは建設から70年以上たち老朽化してきた。日本の社会インフラが老朽化は,最近の多くの自然災害で明らかになったが,近年の新しい技術システムに対応しなくなっているので,インフラの増強・刷新投資をしなくてはならない。また通信基盤システム,エネルギー配送システムも新しい技術でアップグレードするために,財政投資をする。こうすれば日本のGDPを700兆円レベルに引き上げることができるし,こうすると税収も増え,雇用も増え,デフレは脱却できる。

 ケインズが例としてあげた「穴を掘り,掘り上げた土をまた穴に埋め戻す」という公共投資ではなく,実のある乗数効果の高い財政投資をすることである。そうした実のあるプロジェクトはいくらでもある。但し財政投資資金,公共投資資金や補助金を誰かのポケットに入るような使い方をしてはならない。そして単年度方式ではなく「プロジェクト」として投資することである。

 インフレの動向を注視して財政投資をコントロールすれば,インフレになることはない。インフレは需要に対してものの供給不足で起こるので,それをコントロールすることである。これに関してMMT(現代貨幣理論)は参考になる。

賃金引上げ,労働分配率の正常化

 もう一つは,働く人の賃金を引き上げ,労働分配率を正常化することである。GDPを伸ばすということは内需を拡大することであり,内需を拡大することは生産された商品を国民大衆が購入することである。そのためには賃金を引き上げ,国民所得を増大する必要がある。

 しかし日本の賃金を上げるということは簡単なことではない。首相が賃金を引き上げましょうというぐらいでは実現できない。中央労使協議会制度をつくり,国と産業の政策としてこれを行うことである。企業の中でも労使協議制度をつくらせる。同時に賃金を下げるような非正規雇用制度を廃止し,移民法の改正を破棄する必要がある。そして生産性の上昇に合わせて賃金水準を上げることである。

 アメリカでも現在,所得格差の是正のために最低賃金労働者を組織する運動「15ドルへの戦い」が全米に広がってきている。労働組合「フリーランス・ユニオン」の加入者が伸び,政治的な影響力も増している。最近アメリカの経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが「脱株主至上主義」を表明した。医療機器メーカーのジョンソン・アンド・ジョンソンも「我々の第一の責任は我々の製品およびサービスを使用してくれる顧客に対するものであり,その次は従業員,地域社会に貢献すること」とし,「そしてその次が株主への配当」としている。アメリカは国民が豊かになれば経済は発展することを知っている。

 一番重要なことは,賃金が上がると,企業は生き残りのために生産性向上のための投資と努力をするということである。「デフレ」と「賃金」という点で見ると,先ず商品が売れていれば企業は生産性向上投資などしない。またデフレで先が見えず,商品が売れる見込みがなければ,企業は生産性向上投資はしない。だが賃金が上がってくると,コストが上がり商品が売れなくなるので,企業は生き残りのために生産性向上投資,イノベーション投資をする。

 そして重要なことは,単に生活保護費や子供手当などを国民に与えるのではなく,国民大衆に自らの生計を立てることのできる意味のある「良い職場」を多く創造し,与えることである。

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