世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
義烏国際商貿城市場と「一帯一路」
(中国・浙江越秀外国語学院東方言語学院 教授)
2019.11.04
建国70周年の国慶節(10月1日)の翌日から2日間,中国浙江省義烏市を訪れた。義烏のバスセンターに着いて見た周りの風景は,何か垢抜けた都市の印象である。暫くして顔立ちや肌の色の異なる人の多いことに気付く。ホテルでチェックインして昼食後,タクシーでまず「義烏港」見学に向かった。だが,国慶節で1週間のゴールデン休暇という。入口は閉ざされ,中は見られない。港を一周してから,義烏国際商貿城市場に向かった。国際商貿城を見学した印象は,確かに「小商品の都」と形容するに相応しい。
義烏市自体は山に囲まれているが,発達した巨大な小商品の卸売市場がある。不思議なことに「義烏港」もある。今世紀に入ると同時(2001年)に,義烏は中国市場の国際化に向けて6億元が投じられ,中国義烏国際商貿城(China Yiwu International Trade Mart)の建設工事が始まり,2002年9月に営業を開始した。その後,2004年10月に第2区が開業し,2005年5月第3区が,2008年10月第4区が,2011年5月には第5区が開業した。
バイヤー向けガイドによると,2005年には国際連合,世界銀行,モルガンスタンレーなどが義烏国際商貿城市場を「世界最大の小商品卸売市場」と呼ぶようになる。現在の義烏国際商貿城は,合計640万㎡を超える市場に7万5000のブースがあり,21万人以上が働き,26のカテゴリーで210万種類の製品が展示・販売されている。年間を通じて21万人のサプライヤーがフェイス・ツー・フェイスで商談し,バイヤーはワン・ストップで購入する。2014年11月には李克強首相が視察に訪れ,義烏の精神を称えた。2017年の「一帯一路」国際協力サミットでは,習近平国家主席が講演で同商貿城に言及している。
義烏は中国商品の最大の輸出基地の1つであり,現在,世界の210を超える国・地域と交易がある。ビジネスの65%が輸出,年間50万人超の外国商人が訪れ,駐在外国商人は1万3000人を超える。ウォルマートやメトロなど20以上の多国籍小売企業と30を超える国内有力スーパーマーケットは固定客である。海外からの投資企業は世界の約75%にあたる国・地域から6800を超える。そのうちの2500社は提携関係がある。ある資料によれば,義烏の外資系企業は2008年から2014年の間は600社前後であったが,2017年には1446社に急増した。こうした外資系企業は「一帯一路」沿線国の国家投資企業が多い。国別では,イエメン152社,イラク96社,イラン71社,シリア63社,インド58社,アフガニスタン42社である。主な業務は義烏商品の買付けであろう。
国際商貿城第1区の1階から3階には,造花,玩具,宝石,装飾工芸,旅行用品など,2区は1階から4階まで,アクセサリーとその材料,雨具,バッグ,スーツケース,ギフト用品,小家電,工具,ランプ,電子製品,時計など,第3区は1階から5階まで,メガネ,春祭り用品,体育用具,服飾品,化粧品など,第4区は1階から5階まで衣類,日曜雑貨,婚礼用品,針織物,カーテンなどのブースがあり,展示会場も併設されている。第5区は1階から4階まで輸入品展示,販売館で,「アフリカ・ASEAN製品展示センター」,「一帯一路商品ショッピングセンター・義新欧主題館」がある。主に服装品,靴,帽子,日曜雑貨,宝飾品,工芸品,菓子類,酒類などが展示,販売されている。5階にはeコマース・サービス・エリアが設けられている。日本,韓国製品も化粧品,菓子類,飲料水などのブースが目に付いた。
義烏市にはその他,国際Huangyuan服装市場と義烏国際生産資料市場が誕生している。前者は2011年5月に開業し,7.8ヘクタールの敷地に42万㎡の床面積の8階建ビルが建てられている。そこには卸,小売,貿易の商業活動部門が入り,1階から5階が売り場である。4992の商業ブースが入り,あらゆる繊維製品がある。75%が主に浙江省と周辺地域向けの国内販売,残り25%が主に中東,アフリカへ輸出されている。韓国製品の巨大な売り場も設けられている。
ところで,義烏は歴史的に農業だけでは貧困から抜け出せないために,古くから行商で特産の糖と鶏毛を交換し薄利を得る「鶏毛換糖」の伝統があった。中国革命後の私的経済活動を制限される時代にも,1960年代から70年代前半には小売市場が半合法的に出現し,それが1980年代の改革開放の流れを掴んで自由市場を発展させてきた。今世紀に入ると現代化の波に乗り,小売市場を中国義烏国際商貿城へと発展させた。2013年に習近平国家主席が「一帯一路」構想を打ちだすと,その構想にいち早く乗った。
義烏にとって,輸送ルートと施設の開発は発展の命脈である。実際,海と陸の一帯一路構想は追い風となった。2013年10月には義烏税関で通関手続きを済ませて海外に輸出する「義烏-寧波北侖」の鉄道ルートを開通させた。2014年11月にはスペインのマドリードまでの「義新欧」中欧班列を発車させた。「義新欧」中欧班列は,全長1万3000Km,所要日数21日間の世界一の長距離路線である。西安を経由して新疆ウイグル自治区の阿拉山口で国境を越え,カザフスタン,ロシア,ベラルーシ,ポーランド,ドイツ,フランスを経由する。その輸送コストは,従来の3分の1になった。
「“一帯一路”是義烏重要通道」(『毎日商報』2017.5.25)によると,義烏はその後の3年間に中欧アジア5カ国,テヘラン(イラン),チュリャピンスク(ロシア),リガ(ラトビア),ミンスク(ベラルーシ),ロンドン(イギリス)などへの合計8路線を開通させ,その路線数は中国一である。往路が週2回,帰路1回の常態化を実現し,中欧班列は累計142回運行,うち往路129回,帰路13回であった。
義烏は一帯一路沿線国の64カ国・地域と貿易関係を持ち,86の都市と交流し,スペインのバルセロナ他24都市と姉妹都市関係にある。2016年の輸出入総額は2229.4億元,2018年は対前年比伸び率9.4%で2560億元となった(「行走“一帯一路”,境外媒体走進義烏」(『新浪財経』2019.4.15))。
義烏は,東に向かう鉄道網「義烏-寧波北侖」と西に向かう中欧班列「義新欧」の開発を通じて,陸と海のシルクロードに義烏国際商貿城市場を連結させたのである。その支点が「義烏港」である。義烏港は鉄道港であり,2015年12月,国家により臨時の対外開放港の承認を受け,浙江省で唯一の鉄道の対外開放港となった。2016年から始まる第13次5カ年計画に組入れられ,国家発展改革委員会の8000億鉄道投資計画の1つに認定され,上海鉄道局と共同で推進された。年間取扱量を標準コンテナー40万個の設計である。
義烏の国際商貿城市場を見学しながら,課題を含んで次の3点が頭に浮かんだ。1つはアフリカ系の人々が目に付いたことである。実際,ブース内での交渉現場も見られた。靴,作業用手袋,工事用ヘルメット,鍵などを展示・販売する店舗,ブースであった。変わるアフリカの一面を見た思いがした。今後の新市場だろう。課題は2つ。どちらも積極的に取り組まれているものだが,1つは,片貿易の克服である。第5区では輸入品フェアの開催などが行われているが,解消には程遠い。もう1つは,電子商取引への対応である。世界経済のデジタル化は,市場の場を相対取引からネット上の取引に変えつつある。膨大な敷地と売り場面積を確保し,直接取引の場を提供する義烏の将来はどう描けるのか。数年前には悲観論が広がったという。
2014年以来,義烏は中国国際電子商取引博覧会及びデジタル貿易博覧会を毎年開催し,2019年4月には第5回目が開催されている。2019年の展示面積は5万㎡,国際標準ブースは2232であった。デジタル貿易区,有名電気商プラットフォーム展示区,越境電気商展示区,モバイルインターネット展示区などが設けられ,ドイツ,フランス,日本,シンガポール,オーストラリア,マレーシア,ナイジェリア,コロンビア,ブラジルなど10の国・地域の企業1132社が出展したという。2018年の義烏国際商貿城の成約額は1358.4億元,対前年比10.8%の伸びであったが,電子商取引額は2368.3億元で16.7%の伸びであった(『新浪財経』2019.4.15)。実際,義烏国際商貿城は共通サイト「義烏購(yiwugo.com)」の他,個別企業等が様々にネット販売に力を入れている。アリババなど物理的な売場を持たないネット企業との棲み分けを始め,多くの課題がある。
義烏は今日まで,環境変化に果敢に対応を試みてきた。間違いなくこれからも様々な試みがなされるに違いない。巨大な施設に圧倒されながら,その成功の裏の厳しい戦いが頭に浮かんだ。
[謝辞]
- 今回の義烏見学では,浙江越秀外国語学院東方言語学院日本語科学生,李婉さん,黄詩さん,林懋月さんの協力を得た。記して感謝の印としたい
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