世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
再発展を目指す日本の経済政策の再検討:行き過ぎたグローバル化,民営化,企業優遇措置
((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)
2019.11.04
グローバル化の行き過ぎ
日本は2001年小泉内閣になってアメリカの尻馬に乗りグローバル化に突き進んだ。何でも民営化,規制緩和,規制撤廃で,グローバル化に走った。世界市場で競争するには労働賃金を引き下げる必要があるとして,「非正規雇用制度」を製造業まで拡大し,一気に賃金を下げた。政府は移民法を改正し,これから更に50万人の移民をいれるという。これで日本の賃金が更に下がることになる。それ以来日本のGDPは伸びず,デフレになって行った。グローバル化で日本企業も海外にでて多国籍化し,大企業は利益を上げたが,国内経済には貢献しなかった。よく言われてきた大企業や金持ちが発展すれば「トリクルダウン」で富は国民大衆に滴り落ちてくるといわれたが,全くそうはならなかった。
日本の労働者の実質賃金は下落し続けており,1997年を100とすると2015年は87.7に下落している。サラリーマンの平均給与は,1997年の467万円をピークに,2005年は439万円,2009年は406万円,2014年は415万円になっている。日本の労働分配率も1975年の73%をピークに現在では60%を切っている。1995年から2015年の間の「労働生産性」と「一時間当たり賃金水準」を見ると,アメリカ,ドイツ,フランスは労働生産性の上昇と一時間当たり賃金水準の上昇は極めて高い相関を示し,両方とも25%から30%伸びているが,日本だけは「労働生産性」は30%ぐらい伸びているが,「一時間当たり賃金水準」はむしろ5%ぐらい減少している。年収200万円以下の「ワーキングプアー」の男性は,国税庁の調査では,3,000万人を超えて,どんどん増えているという。30・40歳代で「貯金ゼロ」の人は23.1%いるし,貯蓄額100万円以下の人は6割を超えると言われている。
つまり日本では,国と企業がグルになり,付加価値に対する労働者の取り分を強制的に企業側に移してしまった。今日の先進国の経済構造は,GDPの60%から70%が国民大衆が購入し消費する商品の生産・販売で成り立っている。国民の賃金が下がり,国民の所得が低下すると,生産された商品が売れなくなり,経済は成長しない。企業側は,労働分配率を下げてそれで儲けたと思ったようだが,そのために日本の内需が減り,企業が生産した製品が売れなくなってしまっていることに気付いていないようだ。企業は仕方なく,国内でのビジネスを諦め,海外のビジネスにシフトし,工場も海外に移した。これにより日本の技術が外国に流失してしまった。しかしその海外でのビジネスも,最近の米中貿易戦争で,特に中国での事業が難しくなって困っている。産業は,グローバル化が進むと世界の安い労働を求めて工場を海外に移すが,生産性向上投資や研究開発投資はしなくなる。そうすると産業の競争力は落ちてくる。日本の電器産業,家電産業の衰退はこうして起ったのである。
日本企業は,賃金を下げ,労働分配率を下げて,利益を拡大し,内部留保を450兆円以上も増やしたが,企業はその金をイノベーションや生産性向上投資には使わず,株価を上げるために自社株を買うか,株主に配当している。最近多くなっている外国投資家が日本企業から配当で利益を吸い上げているのだ。これは日本の労働者,国民には恩恵はなく,日本の国民経済を衰退化させている。アダム・スミスはこうした日本の経済は良くないとした。GDPの拡大のためには,国民大衆が商品を購入することができるように国民の所得が伸びなければならない。
デフレにより経済が成長しなければ,人間社会のなかの文化は衰退する。この22年間のデフレで,日本の芸術も美術も文学も衰退してきている。これでは政府が金を注ぎ込んでいる「クールジャパン」など意味がなくなってくる。
グローバル化で,どこの地方の街に行っても,画一化した,同じような風景になってきた。どこに行っても同じコンビニ,同じファーストフード,同じコーヒーショップ,同じショッピングモール,同じモーテル,そして大企業のための部品加工工場が並ぶという風景になってきた。しかし今そうしたフランチャイズ化された画一的な事業はビジネスも最近うまくいかなくなり,縮小し,再整理されるようになっている。人間はそれぞれ違う,個性があるものである。地方にも国にも個性がある筈であるが,グローバル化はその個性を日本から消してしまった。「みんな違って,みんないい」という社会にし,地域に根差した産業を創り,国の内需を拡大しなければならない。
行き過ぎた民営化
グローバル化の行き過ぎで,政府は「何でも民営化」を進めている。外国の日本への資本投資を自由にしているので,中国人が日本の土地をどんどん買っている。すでに北海道では静岡県の面積以上のものが中国人の所有になっているという。購入者の名前を変えているので,中国人が買っているはもっと大きなものになる。人間の生活に重要な日本の水源地を外国人が買いあさっている。今,水道を「コンセッション方式」と称して民営化しようとしていて,浜松市の下水道,宮城県の上水道がフランス企業に売られてしまったようだ。またJRが破棄した路線の周囲の土地を中国人が買っているし,空港の民営化を進めている中で,中国人が含まれている可能性もある。関西国際空港も怪しくなっている。外国投資家の審査を適切にしなければならない。
2018年政府は,種子法を廃止し,種子を外国企業に頼ることにしようとしている。アメリカのモンサントは遺伝子操作により,作物が雑草に強い種子にし,その種子は自分の種子を作らないものに変えられ,農民は常にモンサントの種子と除草剤という農薬を購入して使わなければならないようにしている。農作物も農薬漬けになっている。インドは既にアメリカのこのモンサントの製品により農業を破壊されてしまった。モンサントは「世界の食料の支配」を社是にしている会社である。日本は食料の安全保障を考えなければならない。
国家の経済の構造において「コモン」というものがある。「公」のものとして国が所有し,管理しなければならないものがある。水道,下水道,空港,鉄道,種子などは民営ではなく,国が運営し,コントロールしなければならないものである。
今やこの40年のグローバル化の行き過ぎが国民国家を壊してきたことに気づき,アメリカもイギリスもグローバル化の行き過ぎを是正しようとしている。トランプも今年の国連総会で「グローバリズムの思想を拒否する」と宣言した。なのに日本は今から本格的にグローバル化につき進もうとしている。日本はいつも世の中の動きに二周遅れで尻馬に乗って歩いている。
円安政策,産業への補助金・優遇措置,企業への租税控除
これらの経済政策は,日本産業を発展させるための施策と考えられてきたが,本当にそうであったのだろうか。円安になり,補助金が出で,優遇措置が与えられると企業は安堵するものである。これが日本産業をスポイルした。日本では昔から「辛抱は買うてもせよ」という諺がある。もしシビア―な環境で企業が危機に陥りそうになると,それを克服するために企業はいろいろの努力をするものであり,この努力が産業の発展の原動力である。円安や補助金やいろいろの優遇措置は企業をおかしくする。特に大企業への補助金は日本経済にとっては無駄なものであった。過去の円高も360円から,200円,100円となる過程で,輸出をするために日本企業は合理化投資をし,生産性を上げる努力をしてきたことにより日本産業の競争力が高まった。しかし日本がデフレになってからは,企業はその努力しないで,グローバル化と称して労働賃金の安い海外に工場を移し,外需に頼るようになり,日本の空洞化が起こった。このようにして日本産業は生産性向上投資や技術開発投資をしなくなった。これが日本の産業を駄目にしたのである。
グローバル化の行き過ぎは,国民国家の経済や文化を破壊し,国民大衆を貧困にしてしまった。外国ではこれを「グローバル化の疫病」と言っている。それなのに日本政府は今でもグローバル化に血道をあげている。
日本の生産性の低下
日本は,1960年から1980年にかけて「品質管理運動」が日本生産性本部,日科技連などにより国民運動として展開され,TQC,改善,合理化運動があらゆるところで展開された。労働組合もそれに積極的に参加した。これが日本産業の80年代の躍進であった。
しかし,1990年以降,日本は,長いデフレで,新しいことに挑戦する意欲を失ってしまった。そのために日本産業は世界の国に比べて生産性が低くなっている。経済成長には「人口増加要因」と「生産性要因」とがある。世界の先進国の1990年から2015年の間の「経済成長率」と「生産性要因伸び率」とは以下のようになっている。アメリカは経済成長率は2.38% 生産性要因伸び率は1.40%,イギリス2.01% :1.49%,フランス1.48% :0.95%,カナダ2.28%:1.26%,EU1.64%:1.38%,世界2.74%:1.42%。日本は0.88%:0.77%で,経済成長も生産性もどん尻である。
これでは日本の国民経済は発展しない。今日の国際情勢では日本は外需に期待することはできない。ここでもう一度国民運動として生産性向上運動,イノベーション促進運動を展開し,内需を拡大する必要がある。
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