世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.551

人民元・SDR入り

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2015.12.07

 2015年11月30日IMF理事会は,人民元をSDR価値の計算基礎となるバスケット通貨の一つとすることを決定した。従来,バスケット通貨はドル,ユーロ,ポンド,円の4通貨であったが,人民元を2016年10月から加え,5通貨となる。しかも計算の比重は,ドル 41.73%,ユーロ 30.93%,人民元 10.92%,円 8.33%,ポンド 8.09%と人民元が第3位を占める位置となった。

 バスケット通貨になるには2つの基準がある。第1は,モノ・サービスの輸出で,中国は大貿易国であり,2010年の検討時にこの基準は満たしていたが,第2の基準である,「よく使用される通貨(freely usable currency)」の基準は満たしていなかった。よく使用される通貨の指標として,IMFは公的外貨準備,外国為替取引,国際銀行債務,国際債務証券などでの使用状況を挙げる。IMFは今回,中国を日本,英国を超える第3番目の輸出国とした上で,人民元は国際決済に広範に使われ,主要な外国為替市場でも取引され,第2基準を満たしているとした。

 SDRはIMFの出資比率に応じて各国に配分され,外貨不足の緊急時には,SDRを主要通貨への変換を要求できる「特別引き出し権」である。1969年導入され,一時,ドルに変わる役割も期待されが,現在,市場性はなく,1ドル=0.729SDRで,主に,計算単位の役割に留まっている。但し,IMFが途上国にSDRを貸与したときの利子は上記5通貨の短期国債の金利の平均を勘案するとされる。

 通貨バスケット入りは,国の威信だとして,習近平総書記が人民元のSDR入りに,種々の手段を使い,影響力を行使してきたことは知られている。多くの国の中央銀行とSWAP協定を結び,また,特に,英国初めの欧州諸国と人民元決済システムを拡大し,ロンドンでは人民元国債の発行を進めるほか,アジア諸国への強い要請を行い,よく使用される通貨への道を押し進めてきた。その結果,人民元の決済網が急激に拡大していることは確かである。

 しかし,今回の決定には,なお,時期尚早の感がある。第1に中国は未だ,資本取引の自由化に至ってない上,政府の市場介入が強すぎる。人民元は世界中で自由に取引されてはいない。第2に,中国はこの7−9月に株が暴落し,人民元が切り下げられ,この間,大幅な資本流出が起り,外貨準備が2014年の4兆ドルから,9月には3.5兆ドルに減少している。さらに言えば,対外債務が大きいうえに,中国人による資本流出の可能性もあり,人民元相場も安泰と言えない状況である。

 第3に,最近の国際機関では,中国の影響力が極めて強くなっているが,その背後に米欧関係の変化がある。その典型はAIIBの設立だが,米国の反対にも拘わらず,英国が筆頭に立ち,独、仏,EU諸国が雪崩を打って加盟した。今回の人民元のSDR入りも,フランス出身の専務理事が旗を振り,欧州勢が賛成し,米,日が反対しても,理事会の表決では勝てない状況があったと推察する。戦後の国際システムは,米主導,欧協調の上に成り立ってきたが,欧州が,中国に同調する時,米国は国際投票では勝てないという,重大なジレンマに直面する。先日,フランスの研究所の所長にこの点を質問したが,2008年の金融危機以来の欧州経済の疲弊は強く,難民問題もあり,イギリスやフランスも,中国の原発援助,エヤバス購入には,大きく影響されるとのことであった。

 中国は,人民元のバスケット通貨入りに気を良くし,アジアや欧州諸国に人民元を公的準備に含めるよう,また,国際決済に一層用いるように要求すると考える。しかし,他方では,中国経済の低迷が続き,資本流出,外貨準備の減少,人民元の大幅下落・切り下げのシナリオもあり得る。その場合,SDRの信認はどうなるのか。そのようなシナリオを,IMF首脳は,今回の決定で,勘案したかどうか,改めて,問いたいところである。

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