世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
私見 世界情勢と日本
(愛知淑徳大学ビジネス学部 教授)
2019.09.30
筆者は,世界に確たるリーダーがいない中,「現行の世界はこれまでの秩序を変更する動きに出ている」と見ている。
これまでの,法治社会,貨幣経済社会をも大きく変える動きが見られる中,「国連,国際通貨基金,世界銀行グループ,世界貿易機関,そして,国際決済銀行を軸とした主要国際機関による統治体制」「英語,米ドル,英米法,ISOを軸としたものづくり基準,英米会計基準と言った世界標準による世界運営体制」が大きく崩れるかもしれない,「過渡期」に差し掛かっているとも感じる。
そして,米国のトランプ大統領は,「米国のトランプ流法治と電子マネーを軸とした新たな信用秩序の構築,そしてグローバル物流体制の統治」を図り,これまでとは全く新たな,「世界秩序」の構築に動き始め,第二次トランプ政権では,これに大きく舵を切る可能性もあると筆者は考えている。
しかし,上述したように,トランプ大統領が,世界の絶対的リーダーとは見えず,これに対抗する勢力も見られ,世界情勢は,「どのように変化するかよく分からない」と言う「混沌=Chaos」の状態にあると思われる。
そうした中,世界の混沌状況を見る上での一つの切り口として,以下のような,ラフな見方をしてみた。
- 日米関係:残念ながら,対等な関係にはない。米国は米国の国益に鑑み,日本に対しては是々非々で対応してきている。従って,米国と心中するほど米国に近づくのは日本にとっては危険である。
- 日英関係:日本にとって,日英関係強化は,世界の中で日本の立ち位置を強める契機となる。然し乍ら,英国自身にBREXITをはじめとした問題が存在しており,必ずしも切り札となるとは思えない。
- 日EU関係:英国を除くEU加盟27ヶ国は必ずしも一枚岩ではなく,フランスやドイツでも,是々非々で中国本土や韓国,東南アジアなどと共交流しており,EUに大きな期待をしてはならない。
- 日露関係:日本としては,第二次世界大戦終戦前後の旧ソ連の動きやその後の北方四島問題などを含め,信頼するに足る国としてロシアを念頭に置くことはできない。また,ロシアの軍事技術が北朝鮮等に拡散されている危険性もあり,注意しなくてはならない。
- 日中関係:日本にとっては,経済的には交流拡大を図りたいところであるが,軍事問題を背景に,中国本土を信頼するには足りない部分がある。
- 日韓関係:したたかに静観,そして無視すべし。一方で,国際社会には,日本の正当性を訴えていかないと日本にリスクが残る。
- 日台関係:経済分野を中心に連携を進め,外交カードとしても利用し得る。但し,国民党の対中姿勢には要注意で,100%信頼するわけにはいかない。
- 日アセアン関係:アセアン10ヶ国は必ずしも一枚岩ではなく,親日もあれば,日本と距離を置く国もある。中国本土や韓国といった諸国を牽制する上からの連携は必要であろうが,マハティール・マレーシア以外とは粛々と付き合い,マレーシアとの連携を強化,その中で,アジアのイスラム勢力との付き合い方も確認していく。
- 日印関係:モディ・インドはしたたかである。英国と共にインドとの交流を確保していく必要がある。
- 日本・イスラム諸国関係:これまでの交流関係を基礎に,但し,深入りはしない。
- 日本・イスラエル関係:安全保障面も含め,一段の交流拡大を図ると共に,イスラム世界とのバランスを取ることを理解してもらう。
- 日本・アフリカ関係,日本・中南米関係:エジプト,モロッコ,南アフリカ,ケニアを軸としたアフリカ外交展開,ブラジル,ペルー,メキシコを軸とした中南米外交展開を図り,是々非々の姿勢を保つ。
- その他:特に,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドとは,英国を軸にして,これらの国との交流を図る。
と言ったことを考えていく必要があり,一方,米中露,INF失効を受けての軍拡の方向性を意識すべし。
- 米中:情報覇権を背景とした通商摩擦の継続,拡大の危険性を念頭に置くべし。
- 中露:「敵の敵は味方」的な連携と基本的不信感の存在を意識すべし。
- 米露:最新兵器の開発競争激化の可能性を意識すべし。
- 米英:BREXITを背景とした連携再強化の可能性を意識すへし。
- 米EU:独仏と米の間の不信感の存在を注視すべし。
- EU露:ロシアに対する軍事的脅威を背景とした不信感の存在を意識すべし。
- 米イラン:戦闘も辞さない米国の動きを注視すべし。
- 米ベネズエラ:混乱,そして泥沼化の可能性を意識すべし。
と言った世界情勢が与件としてあり,日本としても,単純に世界情勢を眺め,分析するのではなく,包括的,鳥瞰図的,複眼的に国際情勢を捉え,パワーゲームをしていかなくてはならないものと考えている。
もっとも,筆者は,本来は,国際情勢がどうであれ,「日本は世界が必要とする物やサービスを,できる限り日本からしか提供できないような技術やプロセスマネージメントを背景にして,適正価格で世界に利用と価格を安定化させて供給できる国になれば,世界は日本を必要とする。よって,世界は日本を無視出来ない。ここで,日本が覇権を求めなければ,日本は世界から尊敬される国として存在し得る」と考えており,そうした国を目指して,日本の産業政策や教育の根幹を展開,変化させていくべきであると考えている。
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