世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
分断社会としての朝鮮半島と儒教思想
(京都大学公共政策大学院/経済学研究科 教授)
2019.08.19
分断社会とマージナル・マン
痛ましいほどの「分断社会」である朝鮮半島。国家が南北に分断されているばかりか,南北とも,社会そのもの・人々が分断されている。北における密告社会,拷問・公開処刑,南における成人男性の高い自殺率,歴代大統領が現政権によって訴追され,収監されるのは当たり前,殺害や自殺に至るほど悲惨な社会は,世界中・歴史上でもでもめったにないのではないかと思う。
分断された社会・人々をまとめるため,外に敵を求める。これも,南北に共通した朝鮮半島の特徴。もっともこれは,秀吉の朝鮮征伐や,西郷の征韓論など,日本(や諸外国)に共通の「狂った為政者」による統治原理であったことは確かであるが。
関西在日の出身の多くは,済州(チェジュ)島。朝鮮戦争後の1948年~1954年にかけて起こった「済州島四・三事件」で李承晩政権の密告・自民族による大量虐殺・日本への密航等で,済州島では事件前の1948年に28万人いた島民が,1957年には3万人弱にまで激減したという。
朝鮮人によって密告・虐殺され,かつ日本人によって差別まみれにされた済州島の人間に,寄ってすがるべきアイデンティティ(居場所)はどこにもない。ただ,寄ってすがるべきアイデンティティがどこにもない人間は,しばしば「マージナル・マン(境界・限界を生きる人)」(M.ウェーバー)として,社会においてずば抜けた力を発揮し,歴史的にもその名を残した偉人が多くいる。
恨の思想とルサンチマン
他方,分断社会である朝鮮半島に住む人の多くが,「恨(ハン)」という思考様式をもっているといわれる。
「恨の思想」は,西洋思想では,ニーチェの「ルサンチマン」がこれに当たる。弱者が強者に対して抱く妬みや恨み,憎悪や復讐心といった概念だが,ニーチュの『善悪の彼岸』が凄いのは,キリスト教の起源を,被支配階級であるユダヤ人の,支配階級であるローマ人に対するルサンチマンに求めたことだ。ルサンチマンは,強い者や豊かな者は「悪」,弱い者や貧しい者は「善」という屈折した価値観を作り出した。さらに欲望や快楽を否定し,最終的にキリスト教の原罪,禁欲主義,現世否定主義につながっていった。ニーチェは,キリスト教の起源だけでなく,近代以降の社会主義革命,さらに一般的に道徳の根底にこのルサンチマンがあるとした。
確かに,キリスト教のみならず(オーム真理教を含めた新興)宗教は,その起源においては,教祖も信者も,トンデモ「奇跡」(革命の成功,日本に勝つ!)を信じ,支配者(社会一般)から迫害され,教祖が処刑されたら,何と教祖のトンデモ「復活」を信じている。
分断社会と儒教思想
この分断社会ができたのは,朝鮮半島の長い歴史,特に李氏朝鮮以降の「儒教思想」に由来する。儒教思想は統治原理としては不適切・最悪,ないしは統治原理にはなり得ない典型的な歴史的事例が,朝鮮半島であると思う。儒教思想が国家の統治原理として最悪な事例が,北朝鮮王朝であり,互いに憎しみを抱き合っている現在の韓国も同様の歴史を持つ。
李朝時代に培われてきた崇儒廃仏,中華主義と華夷秩序の世界観。韓国からすれば,日本は明らかに自らも劣った野蛮な夷族の地と認識している。今なお韓国は「日本は文化的に低い位置にある」と見なし,その「侮日観」によって,自国民は絶対善であり,日本は絶対悪でなければならない(呉善花『韓国を蝕む儒教の怨念~反日は永久に終わらない』小学館新書)。
地位の高い人,成功した人,富める者,男性は「徳を積んだ人」であり,地位の低い人,敗した人,貧しい者,女性は「徳を積まなかった人」である。「成功した人は頑張ったからだ,成功しなかった人は怠けたからだ」という日本の通俗道徳にも,全く因果連関がないが,「成功した人は徳を積んだからであり,成功しなかった人は徳を積まなかったからだ」という,まったく科学的根拠のない儒教思想は,やはり宗教だ。
だからこそ,日韓関係が歴史的に最悪な今だからこそ,必要なのが,「YouTubeで動画を見るなら,日韓の軍事摩擦の喧伝動画ではなく,ぜひ『韓国人が日本焼き鳥専門店初体験』をお勧めする。日韓の若い世代が,大人げない嫌韓・反日を振りかざす大人たちを全く余所に,実に健全な隣国交流を続けていることに安堵するはずである。この世代の健全さを,思考を停止した大人たちが,『毅然とした態度をとれ」などという通俗道徳を振りかざすことで,二度とぶち壊さないことを念じている」という姿勢である(岩本武和「新自由主義と通俗道徳」『世界経済評論IMPACT』2019年1月14日)。
日本(世界中)も朝鮮半島を嗤えないほどの分断社会になっている。それが生み出すものがファシズムであることは,戦前の日本(世界)でも明らかだ。貧困は自由を憎む。競争を嫌う。自由と競争が貧困を生み出すからだ。その結果が,国家社会主義(ナチスと日帝)だ。二度とその轍は踏むまい。
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