世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1424

米中貿易戦争はどうなっているのか

童 適平

(獨協大学経済学部 教授)

2019.07.29

 去年7月にアメリカが仕掛けた米中貿易戦争は拡大する一方で,世界経済の不安材料として,その行方が大きく注目されていたが,G20大阪サミットで米中両国首脳は突如“休戦”に合意し,世界を驚かせた。米中貿易戦争が中国の輸出入と中国経済に与えた影響はどう表れているだろうか。

 中国税関統計によれば,2018年,中国の輸出総額は2兆4874億米ドル,前年(2兆2635.2億米ドル)比9.9%増,輸入総額は2兆1356.4億米ドル,前年(1兆8409.8億米ドル)比15.8%増であった。輸入の増加が輸出の増加を大きく上回った結果,黒字額は3517.6億米ドルとなった。これは前年の4225.4億米ドルより707.8億米ドルの減少となったが依然として巨額の黒字を計上している。

 注目の対米輸出額は4784.2億米ドルと前年の4297.5億米ドルより拡大した。対米輸入額は1551億米ドルで,わずかながら前年の1539.4億米ドルを超えた。対米貿易黒字も前年の2758.1億米ドルを上回る3233.3億米ドルに上った。

 一見,中国貿易は貿易戦争から影響を受けていないようだが,今年に入ってから状況が一変した。同じ中国税関統計によれば,1〜6月までの輸出総額は,前年比で0.1%の増加に止まり,輸入総額は更に4.3%の減少となった。このうち,対米輸出は8.1%減の1994.0億米ドル,輸入は29.9%減の589.2億米ドルとなり,貿易戦争の影響が顕在化してきた。

 貿易額を地域・国別に見てみると,昨2018年の中国輸出総額の前年比増加率9.9%に対して,対アセアン輸出総額の増加率は14.2%で,特に対ベトナム輸出は17.2%と高かった。ほかに,輸出増加率が目立つ国はアメリカ経済とつながりが強いと思われるカナダとメキシコで,今年に入っても,全体の輸出増加率は0.1%に対して,それぞれ対アセアン輸出7.9%,対ベトナム14.3%,対カナダ12.6%と高い伸び率を示している。

 これらのデータが示唆するところは,貿易戦争が始まって以来,報復関税実施までに“駆け込み輸入”と“駆け込み輸出”,そして“迂回戦術”による企業の対応である。駆け込みの結果,昨2018年の対米輸出入は減少せずに,逆に大きく上昇したとみられる。だが今年は駆け込みがなくなり,“迂回戦術”のみの対応のため減少幅が縮小したものの,やはり減少を免れないと説明できよう。

 この前提に立てば,中国企業の対応で中心的な役割を果たしたアセアンが注目される。今年1〜6月間の統計では,アセアンはアメリカを抜いて,EUに次ぐ中国の二番目の貿易相手になった。この勢いが続けば,アセアンが中国にとって最大の貿易相手になることは最早時間の問題だと思われる。中でも対アセアン輸出入の3割弱を占めるベトナムは今後一層注目する存在になる。

 商品貿易だけでなく,資本移動の動きも見られる。ベトナム共産党新聞紙「人民報」によれば,2016年以降,中国の対ベトナム直接投資額は年15%増の勢いが続き,今年1月から4月までの投資額はすでに前年2018年の70%に達した(注1)。この背景にある注目すべき点は,中国政府の対外投資政策がこれまでの促進から規制へと転換された時期と重なったことである。

 米中貿易戦争は中国の少子高齢化と人件費の上昇などの要因と重なり,輸出主導成長からの転換に重要なインパクトを与えた。迂回輸出はこの事態の緩和ができても大局を変えることはできない。また,迂回輸出戦術は諸刃の剣の面もある。一時しのぎの戦術として機能しても,かつての日本やNIESが経験したように,中国も生産拠点や資本の移転,これによって発生する国内雇用の減少に直面するだろう。これまで経済の繁栄を支えてきた輸出と投資主導の成長戦略はどこまで続けられるか,どこまで修正できるだろうか。アメリカが要求した条件に変化がなければ,中国の試練はこれからである。

[注]

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