世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1417

ポストグローバル化で再興を図るアメリカ,グローバル化の疲弊に沈むEU

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.07.22

アメリカ

 アメリカは,第二次世界大戦後,ブレトンウッズ体制のもとに1945年から1985年にかけ国民国家主義で新しい産業を次々と開発し,「高度大衆消費資本主義社会」を築いた。資本主義活動の制御装置を作り,福祉社会を構築して経済成長を遂げて繁栄した。これによりそれ以前の大きな所得格差を是正して,国民の所得も上がり,アメリカ経済の内需が拡大し,黄金時代を築きあげた。

 しかし1975年ころから一部のグループが新自由主義でグローバル化をドライブし,アメリカの高度大衆消費資本主義の構造を壊しはじめた。実際にはレーガン大統領のころからアメリカ産業の空洞化が起こり,労働者の賃金は下がり,失業者が増え,企業のリストラが進んで,儲からない事業部門をどんどん閉鎖し,産業は衰退していった。そのためにアメリカは外からの借金で購入した外国商品を消費するという「借金経済」に陥った。儲かったのは多国籍産業とウォール街の多国籍金融資本だけであった。そしてアメリカはソ連との長い冷戦,1991年の湾岸戦争,2001年のイラク戦争で膨大な金を使い,経済は衰退し,技術力・イノベーション力を弱め,覇権国としての経済力を失ってきている。これによりアメリカの中間層は貧困化し,国民所得で上位10%の層が富の50%以上を所有することになり,アメリカの各地で「オキュパイド・ウォールストリート」「1%は99%のために」という市民のデモが起こった。

 こうした状況の中でアメリカはトランプ大統領を迎えた。トランプは「グローバル化をストップさせる」と宣言し,アメリカの本当の力を取り戻そうと,国内の社会の仕組みの改革と同時に国際的な政治・経済の仕組みを組みなおそうとしている。グローバル化の行き過ぎを是正しようとしており,福祉制度を変え,「フードスタンプ漬け」により働かなくなった多くの人に職場を与え働いてもらうようにしようとしている。そして近年広がっている麻薬漬けで働かないアメリカ人が増えていることに対して,麻薬をアメリカに持ちこむ違法移民を遮断しようとし,メキシコに壁を作ろうとしている。アメリカのGDP(2018年)は約20,494億ドルに対して貿易赤字は8,787億ドル。アメリカは,人の金を借りて外国から商品を買い消費するという「借金経済」には陥った。これではアメリカは崩壊する。これまでの大統領はこれをほっておき,何もしなかった。トランプはこの異常な貿易赤字を消そうと動き出し,貿易戦争を仕掛けている。しかし中国のファーウエーを叩くのではなく,トランプは弱体化したアメリカの先端技術力・イノベーション力を強化させなければならない。

EU

 近代のヨーロッパの歴史は隣国同士の戦争の歴史であった。お互いに戦争をやめ,同時に団結してソ連に対抗しようとしてEUが生まれた。しかしEUの組織構造はグローバル化を基礎にしたものであり,その仕組みは初めからいろいろの矛盾をもっていた。EUの加盟諸国をまとめるためにブリュッセルのEU連合本部の官僚が強力な力を持ち,加盟国に対する金融政策,財政政策をコントロールし加盟国の国民経済を錯乱させている。EU連合本部は2万以上の規則を作り,加盟国にそれを強制的に実施させている。加盟各国は国家としての主権を行使する力を抜かれ,独自の適切な経済政策,金融政策,財政政策を実施できない。そしてEU連合本部は人道主義を標榜して,移民・難民を大量に受け入れることを決め,各国に強制的に割り当て実施させた。移民・難民はある量を越えると,その国の賃金は下がり,職は奪われ,国が貧困化し,地域の国に同化,吸収できなくなり,国の中にいくつもの異国ができ,文化紛争,分裂が起こり,民族的軋轢で,社会が疲弊することが起こっている。これを「西洋の自死」と言っている。グローバル化により「天まで届くバベルの塔」を建てたために天が人々のコミュニケーションを絶つという罰を与えられたということか。こうした社会にたいして加盟国の国民がノーと言い始めたのだ。イギリスのブレグジットの原因はこれであり,フランスの黄色いベスト運動もこれが根にある。ギリシャ,イタリーの財政破綻もEUの統治機構の欠陥が原因である。

 統一通貨ユーロを作ったが,ギリシャやイタリアなどの劣等生がいるのでユーロ通貨は安い。ドイツはそれを利用して,安い賃金の移民や他国の労働者を使ってモノ造りをし,世界に商品を輸出して一人勝ちで儲けてきた。特にドイツは中国の市場で膨大な商品を売りさばいているが,ドイツの国民は豊かになっておらず,移民問題で苦しんでいる。その中国経済が最近おかしくなり,ドイツ,EU全体も経済的にも衰退してきている。これは「EU疲労」とも言われている。こうした状態に対して,EUの加盟国の国民中間層が,EU本部,ドイツのメルケル,フランスのマクロンにノーを突き付けているのである。

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