世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1413

トランプ流北朝鮮訪問:長期的覇権争いの様相を呈する中米関係

津守 滋

(東洋英和女学院大学 名誉教授)

2019.07.15

 トランプ大統領は,6月30日突如北朝鮮を訪れた。2分足らずの北朝鮮領土内での滞在であるが,金正恩主席がことのほか喜んだのも故無しとしない。とにかく米大統領が北朝鮮の地に足を踏み入れたのは歴史的といってよい。金主席は,これを外交的勝利とする。米国がともかくも北朝鮮を実質的に承認した効果がある。

 トランプ政権として(トランプの個人的意見として)戦略的中米関係には,十分の関心を払ってないように思える。この点アメリカ政府内でのボルトンやポンぺオとスタンスを異にするように見える。他方中国は,短期的・戦術的にはトランプが重視する赤字解消のための弥縫策によって,当面の摩擦に対処しようとしている。そして建国100周年を目標にして,米との覇権競争に勝ち抜こうとしているように見える。

 目標は,「偉大なる中華帝国の復活」である。

 トランプ大統領は,一時5月での解決に言及したが,最後の段階で撤回,8月の決着を目指している。日本での参議院選挙に配慮したといわれるが,そうであれば,選挙後思い切った手を打ってくるかもしれない。木村福成氏などは,11か国で決着しているTPP以上の譲歩を日本にも迫る可能性もありうること示唆している。

 日本政府は,11か国によるTPP合意以上の譲歩や自動車への高関税,数量規制には,徹底的に抵抗するにしても,決裂覚悟の上で最後まで突っぱねられるかどうか,疑問といわざるを得ない。今回のトランプ訪日にあたっては,ゴルフなどで接待漬けにしたが,このような歓待が効果を発揮するほど状況は甘くない。

 このような二国間の紛争を効果的に裁定する国際的枠組みのないことが問題である。第三者や国際機関の役割が一応整えられてきているとはいえ,わずかに存在するOECDのDACなどのルールにも米国は縛られないとする。少しずつ整えられてきているルールですら無視する米国の態度は,弱肉強食の原始時代そのものである。

 中国は南シナ海への進出あたり,いわゆる「九段線」なる議論をもって歴史的領有権を強引に主張している。その法的根拠について,ハーグの常設仲裁裁判所は,フィリッピンの提訴に基づき,2016年7月12日「法的根拠なく,国際法違反」との判断を下している。(南シナ海判決)。

 しかし中国政府は,この判決は「紙屑」として,一方的に緩衝地帯の埋め立てを強行してきた。この強硬策に対して,ヴェトナムとフィリピン等,有効な対策を講じないでいる。

 わずかに米国が,「航行の自由作戦」と処して牽制を行っているだけで,隔靴掻痒の感を禁じ得ない。

 マラッカ海峡を通じて,石油・鉱物資源の8割を輸入する日本にとって,この海峡の安全は,日本の国益にとって死活的に重要である。

 中国は最近6発のミサイルをこの南シナ海に向けて打ち込み,その実効支配の意図をあきらにしている。憂慮すべき事態と言わざるを得ない。

 中国は,さらに日本の固有の領土である尖閣諸島への主権をも主張し,接続水域のみならず,領海侵犯をも繰り返している。台湾の武力統一をも視野に入れている中国は,日中関係が緊張した折には,大量の漁船も動員して,日本に圧力をかけてこよう。

 中国は経済発展を遂げれば,安全保障面でも「普通の国」に変化するのではないかとの希望的観測も一部には見られたが,現状ではこの期待は裏切られ,むしろ強権的な権力志向に向かっているようにみえる。ウイグルの人権弾圧を見れば明らかである。

 このような状況の中で,米国自体の人権に関する取り組みに今一つ明確なものがなく,また一歩一歩築き上げてきた自由への取り組みに水を差す動きは,残念と言わざるを得ない。

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