世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1033

中国の西方への進出

津守 滋

(東洋英和女学院大学 教授)

2018.03.19

 中国の勢いが止まらない。太平洋の範囲を超え西へ西へと拡がっている。「米国第一主義」を唱えるトランプ大統領の米国が,世界全体の動向に関心を失いつつある隙がつかれた感がある。今や中国のやりたい放題である。長年虐げられてきた中国のリベンジが始まった。これまで世界を動かしてきた国々は,今や指をくわえてその行方を見守るばかりである。

 昨年7月21日付けファイナンシャルタイムズ紙は,チーフポリティカルコメンテーターのフィリップ・スティーブンズの解説記事を載せている。それによると,昨年1月1日中国製の工業製品を満載した列車が,18日をかけて欧州の7ケ国を通過してロンドンに到着した。欧州と中国を結ぶこの「新シルクロード」の心理面で与えた影響は絶大である。これまで中国の列車は,ポーランド,ドイツ等にきている。しかし欧州の西端ロンドンは特別の意味を持つ。鉄道の大幹線によるユーラシア大陸を一体化する結合である。ブレジンスキーは,97年の時点でユーラシア大陸の重要性を理解し,「世界の軸となる超大陸」と呼んだ。世界の陸地の3分の1以上を占め,世界の人口の約70%が暮らすこの地域の勢力争いが,パックスアメリカーナ―を根本的に変える意味を持つという。ファイナンシャルタイムズ紙は,このような状況を踏まえ,結論として,「「ユーラシアの世紀」の到来も現実味を帯びてきた気がする」と述べている。

 中国の西への進出を具体的に見てみよう。今や中国製品の玄関口になっているポーランドは,爆買いの拠点になっている。ドイツのデュイスブルクもポーランドとよく似た状況にある。さらに地中海の戦略的拠点のギリシャのピレウス港は,今や中国の支配下になりつつある。

 アフリカについては,米国が関心を失う中で,中国の独壇場になっている。中央アジアについては,「地理的近接性」により,中国の優位は圧倒的である。インド洋については,「真珠の首飾り」により,インドを包囲する状況である。そして最近インド洋のど真ん中のモルディブでは中国がインドとの間で勢力争いを展開している。

 このような中で,安倍首相は,「インド太平洋構想」をぶち上げた。中国の勢いに対するささやかな抵抗ともいえる。この地政学的なバランスをとる試みが成功するかどうかは,日本外交の強靭性と持続性にかかっている。

 中国は長期目標として今世紀半ばごろまでに例えば経済規模で米国との覇権競争に勝つとしているが,果たしてこの目標が達成できるかどうか。素直に見て,ソフトパワーまで含めて米国を凌駕するのは無理であろう。また日に日に強大化するインドの行方にも注目する必要がある。中国の独壇場になる可能性はそれほど大きくないかもしれない。

関連記事

津守 滋

国際経済

国際政治

アジア・オセアニア

最新のコラム