世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世代間ギャップを埋めるために
( エコノミスト )
2019.06.24
「通年採用」が本格的に報道されているので再度確認し,逆流することのないように願いたい。論者によっては,大学入学早々から就職活動を展開することを「通年採用」と考えている人もいるからである。
高齢ドライバーの多重事故と若年層の生活苦から派生すると考えられる幼児虐待,引きこもりとその爆発が頻繁にニュースになっている。また,孫の学費援助のため生前贈与を受け易くする制度改正,二世をジャンプする相続制度の改正などが時々取り上げられている。これらの問題は世代移行がスムーズに行われていない事例の証であろう。日本人の寿命が延び,90歳,100歳が珍しくなくなったことは結構なことであるが,社会で活躍すべき年齢がどんどん先送りにされ,また,特定の既得権益者が長期間に渡って君臨する社会は,清朝末期の社会を連想させてしまう。年金記録のデータ整備によって就業期間の補足は可能となり,また年金支給額の高低によって,現役時代の所得も推計可能である。現役層の所得よりも年金の方が高い事例も珍しくない,と噂されているような社会構造や労働市場では,我が国の活力は維持できない。有閑階級に高額な所得を分配し,現役であるべき年代層が相対的貧困にあえいでいるのである。もちろん高齢層の間でも大きな格差が存在しており,所得分布構造は錯綜している。
他方,中国では大学入試問題に「中国文明の偉大さ」を出題し,国家・世界をリードする人材を育てようとしている。対して,我が国では18歳以上に選挙権を与えたのは相当であっても,天下国家(経世済民)を論ずる講座は鳴りを潜め,ひたすら需給ギャップの世界に後退している。青年層は誤った観念(軍国少年や左翼小児病等々)であれ,青雲の夢と希望に溢れて然るべきものであるが,こうした学生は日を追うごとにキャンパスから姿を消しつつあるように思える。もっともこう感ずるのは老婆心の現れであろうが。
現在,ほとんどの教育機関では生徒・学生に教員・授業についてアンケートを実施するようになった。これが民主的社会なのだろうか。権威主義の蔓延でも社会は硬直化するが,権威のない(あるいは失った)教員では「学級崩壊」しか招きようがない。4年次を企業研修に全てお任せするという大学改革案は一考に値する。この案をさらに進めた改革案は,大学卒業要件を「3年以上在籍し,124単位以上を修得」した時点で,学士の学位と卒業を認めては如何か。「卒業年限を10年間まで延期し,会社務めと通学を交互に行って良い」という議論をしている経済学者もいるが,在籍年数を区切る必要があるのだろうか。一生かかって卒業する学生がいても良いと思う。但し,修業年限が長引く場合はその期間,高卒者として就職することにならざるを得ない。学問とはそもそもそのようなものであり,普遍的なものであるはずだ。少子化による18歳人口が減少しているわけだから,入学年齢を縦にとって生涯学習社会の本格的到来に備えることは意味のあることである。
そして,大卒者の就職活動は卒業した段階から始めるようにして,いわゆる「大学卒業見込み証明書」による就職活動を全面的に禁止してはどうだろうか。経済社会の変化が激しく,かつ長寿社会では「通年採用」が最も妥当であり,在学中から授業と就職活動の二束わらじを課す必要はないであろう。「虻蜂取らず」とはこのことである。産業界が必要とする実務型知識をサラリーマンに求めるためには,「りそなHD」の様な企業内大学を設置する他はなく,財界人による企業セミナーの充実こそ望まれる。大学はアカデミズムに徹して,ビジネス教育は卒業単位とは全く関係ない公開講座や課外学習として,企業人に任せるのが合理的である。つまり施設・ハードの有効活用を図りながら,学校法人は「空き教室」を企業人に有料で提供することに留めておくべきであろう。9月入学の議論を終了したように,そろそろ実務教育を過剰に評価するのもやめにしたいものである。AI化の加速による「2045年問題」がクローズ・アップされている状況で,実務型労働がどれほど需要を維持できるのかが疑問だからである。
「就職氷河期」などと規定し,ある特定の年代層が労働市場から排除されたりすれば,世代間ギャップは埋まり様がない。年代に関わらず開かれた労働市場を構築することが,柔軟な社会を形成し得る。時のモデルだけが美しいものではない。種々雑多な社会観や哲学的思考などがなければ,大国に太刀打ちできない。これは一部外交官のみに求められるものでも,専門家の独占物でもない。旺盛な知識力を持つ企業幹部や,中間管理職が満ち溢れている社会は魅力的である。広く国民的知力アップを図り,常にそれが更新されていかなければ,我が国は老大国に漸次後退せざるを得なくなる。
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末永 茂
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