世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1366
世界経済評論IMPACT No.1366

ジレ・ジョーヌ対策の総合経済緊急対策は約170億ユーロ

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2019.05.27

景気への影響は慎重 第1弾の100億ユーロ緊急対策

 2018年12月10日マクロン大統領はジレ・ジョーヌ対策として80〜100億ユーロ追加の財政支出する覚悟で,燃料税引上げ撤廃すると同時に,最低賃金(SMIC)100ユーロ引上げ,月額2000ユーロ以下の年金給与者にはCSG(一般車社会税)引上げを中止するなど歩み寄りを見せた。国民議会議長で与党・共和国前進事務総長のリシャール・フェランは当初予測の2.8%から赤字幅は拡大するが,2020年には財政赤字は3%以内に収まるとみている。政策変更の影響は一時的であるする理由は競争力強化・雇用促進税額控除(CICE)の減税措置の一部転換は2019年一年間のみであり,SMIC引上げで購買力平均世帯当たり0.8%増えるとしている。エコノミストはジレ・ジョーヌの影響には比較的冷静であり,マクロン大統領を含めて財政赤字は3%以下にとどまるとする意見が多い。

 マクロン大統領が要求に対して回避したテーマとして,批判の富裕税について課税水準が余りにも高いという理由から企業は雇用にも投資にも向かわなくなるので,この税を再び復活させることはあり得ないとしている。給与所得者の従業員負担料の引下げをCSG(一般社会税)の1.7%引上げに代える措置の廃止はジレ・ジョーヌの強い要求であったが,結局,月収2000ユーロ以下の年金給与者には適用されなくなることで全廃にはならなかった。

 ノートルダム大聖堂の火災事故のため経済対策の第2段の当初の発表時期が遅れた。さらに300人のジャーナリストをエリゼー宮に招いた異例の大統領記者会見では国民討論会およびジレ・ジョーヌの要求する検討事項としての優先課題は次の2点であるとしている。

  • ①市民参画型直接統治(RIC)をどのように実現していくか。選出されていない市民の声をどう政治に参画させるか。
  • ②徴税については財政赤字を減らすなかでどのように公共支出の水準を引下げないで減税できるか検討する。どの税制を建て直せば公平で効率的なのか。優先される措置はなにか。

 多国籍企業の租税回避,選出議員の特権などは大統領の発言からは言及されなかった。

ジレ・ジョーヌ対策第1弾100億ユーロで購買力上昇

 多くの研究所では国民の購買力は平均世帯当たり0.8%増えるとしている。INSEEはマクロ経済への影響を2019年第1四半期に可処分所得の0.5%増加と計算としている。その内訳は,時間外労働時間給与免税措置は裕福な世帯の60%に対して約0.2%の改善。一般社会税(CSG)引上げの停止による年金2000ユーロ以下の年金者所得のプラス,エネルギー公共料金免税措置の拡大,炭素税の廃止,などINSEEはこれらを総合的に見て2019年第1四半期に可処分所得は0.5%増加すると計算。就業している人には最終的には2.3%の可処分所得のプラスになる。2割の高所得階層にとっては平均可処分所得が3%ほど減少する。しかしいずれにせよ最富裕層は富裕税(ISF)が不動産所得税(IFI)に代わるので可処分所得が6.4%ほども増えることに変わりない。フランスでは1%の富裕層が6%の購買力を占めているというようにATTACのアンケート言うようにCAC40(上場優良株上位40企業)企業は租税回避も含めて利益を上げている。その利益は株主に配当や自社株買いで還元されている。エコノミストはジレ・ジョーヌ運動の経済に対する影響を過度に悲観的に見ることに極めて慎重である。もっとも2019年に入り経済指標,なかんずく購買担当者景気指数PMI指標の弱さに見るように世界経済予測は軒並み下方修正に向かっている。

第2弾は約70億ユーロ規模 今後の工程表

 マクロン大統領が2019年4月25日に発表した政策は2020年から50億ユーロの減税措置である。ルメール財務相は1200万世帯に世帯当たり350ユーロの減税,その上の所得階層には180ユーロの減税を検討中である。第1種の課税基準対象の1200万人には平均350ユーロ,第2種対象の層には180ユーロのそれぞれの減税を中間階層向けに実施する。政府与党は国会での議論を効率的に進め法案の成立を早めたい意向である。ジェラール・ダルマナン予算相によると減税規模は65億ユーロである。これで2018年12月の購買力向上を狙った100億ユーロを入れて,経済緊急対策は総合で約170億ユールの減税規模になると説明した。

 国民討論会を受けたマクロン大統領の声明の具体的な内容を発表した内閣の審議を終えた後,フィリップ首相は今後の政策実行の工程表を発表した。10%選挙民と185人国会議員発議による市民イニシャティブ国民投票,同棲主義者に出産補助医療(PMA)を含む生倫理法案,デルブワイエ議員より退職年金法案,滞っていた国会議員削減と比例代表制拡充のための憲法改正法案などを7月に提出する。企業向けの租税優遇措置の廃止の内容は6月に発表される。CICE(企業競争力減税)は現行通り維持する。国立行政学校(ENA)改革の内容がF.ティリエ報告が6か月後に発表される予定である。

 大統領の世論支持率は若干の上昇はあったが,依然として30%前後で低迷したままである。5月26日の欧州議会選挙では極右翼政党の大幅な伸びが予想されるなか,中道勢力の得票が伸び悩むかどうか大きな焦点である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1366.html)

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