世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
21世紀を占う企業間提携の新たな展開と多様な展望
(立命館大学 名誉教授)
2019.04.29
情報化の進展は「インダストリー4.0」に代表される新産業システムの勃興を生み出しているが,それと同時に,企業間の提携に関しても,新たな動きが顕著になっている。
たとえば,OEMといえば,有力巨大メーカーが実際の生産を同業小メーカーに委ねて,出来上がった製品を自社のブランド名を付けて,長年培ってきたマーケティング能力に乗せて大量販売して成功を収めるのが常套で,その結果,電機製品なら何でもできる「総合電機メーカー」といった,いささか誇大な勲章を得てきた。だが近年,その虚名に陰りが見えてきた。一つはこれまでの同業種内のOEMとは別の,異業種間に跨がる企業間提携が,プライベートブランド(PB)と呼ばれる新たなブランド戦略となって活発化してきていることである。このPBでは,従来のOEMやODMがメーカー主体であったのにたいして,小売業者が主体であるところに特徴がある。たとえば,大手の小売業者が単に販売に特化するのではなく,消費者に直接に接して培ってきた評判をもとに,自社ブランド名を冠したビールや衣類を他業種メーカーに委託するといった方法である。それは薄利多売の安売り路線から,比較的高額なブランド品販売への中心軸の移動による高収入確保を意味することにもなる。その結果,委託生産している製造メーカーの実際の生産量を判定する材料の適否にも関連してくる。たとえばビール会社の中には市場での自己のシェアを誇示するために,こうしたPB依頼品までを入れて発表するところもでているが,それを不正確と指弾する他社からの声もあって,見直し機運が強まっている。
もっとも,自社内での生産をやめて,外部に生産を委託するやり方は,半導体生産において,広くおこなわれてきた先例がある。そこではEMSと呼ばれる生産と設計,販売の国際的分離が進んでいて,今日では,そこから発展して,世界中のパソコンのほとんどは実際は台湾の有力ファウンドリー(受託企業)に委ねられている。そしてファブレス化した大手パソコンメーカーはそれを自社のブランド名を冠して世界中で販売していることは周知のところである。またアパレル産業では,綿密な技術指導を施して,素材,デザイン,仕様等を提供し,実際の生産は低賃金の途上国に委ねて,自社ブランド名でグローバルに販売するやり方が広範に展開されてきた。この両者ともに今日のグローバル経済を象徴するものとされてきた。これに加えて,今やPBが新たに注目を浴びるようになってきた。
もう一つはこうした動きの中で中小メーカーの力が大きくなっていることである。そこでは一回の生産数の小さな小ロット生産が行われている。これは柔軟性があり,小回りが利き,有能な高技能労働者をもつ中小企業の得意としているところでもある。その背景には,SNSに代表される情報化の進展に伴って,生産と消費が直結するようになり,しかも大量宣伝ではなく,口コミを含めたEnd to Endによる情報交換が活発になってきたことがある。このことは受諾企業や部品メーカーの下請け企業からの脱皮を促す機運ともなっている。たとえば大阪の製靴組合が共通ブランド名を立ち上げて工場直結の靴を迅速,少量,割安で販売して成功を収めつつある。その背景には,利幅は低くても安定的であった有名ブランドの下請けが,デパート業界の不振などによって転換を図らなければならなくなり,それへの対応として工夫されてきたことがある。これはまた日用品において広くみられるようになってきている。百円ショップは税負担の高率化と物価高や低賃金国からの廉価製品の輸入などに促迫されて盛んになってきたが,化粧品業界ではごく少人数で特定商品を割安に生産し,SNSを利用した広告・宣伝でシェアを急速に伸ばしている女性経営者の会社がある。ユヌスの始めたソーシャルビジネス(マイクロファイナンス)を想起させる試みである。これが先進国の中小企業や途上国の地場企業との間でおこなわれるようになれば,企業間国際水平提携(IHL)となるだろう。それは多数の国に散在する小工場の簇生という新たな工業化(マイクロファクトリー)の勃興を意味する。
もっとも,少人数,小ロット,低コストは利点ばかりではない。とりわけ,低賃金を解消したいという切実な願いをどう実現していくかということに関しては,慎重かつ長期的な検討と総合的な判断がいる。最低賃金を一律に引き上げようとしたため,皮肉にも中小零細産業に成り立ちえないほどの致命的な打撃を与えた韓国政府のおこなった最低賃金制の引上げがある。目的は善でも手法を間違えると致命的な失策になりかねない。この教訓を政治革新と経済改革を目指す政治運動は肝に銘じる必要があろう。
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