世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1261

途上国ビジネスにアピールする法制度を

鈴木康二

(元立命館アジア太平洋大学 教授)

2019.01.28

 憲法で環境に関する規定を持つ国は世界に90か国ある。環境権を憲法に規定する国25か国は,仏,西,ノルウェー,チェコ,ポーランド,韓国,アルゼンチン等先進国と,ルーマニア,ブルガリア,露,アゼルバイジャン,トルコ,南ア,エチオピア等途上国だ。自民党憲法改正草案は環境権を規定せず,「環境保全の責務」を新設し「国は国民と協力して国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない」と規定した。同様な規定の国は,独,蘭,スウェーデン,中国,カンボジア,アフガニスタン,アルジェリア等7か国だ。

 自民党憲法改正推進本部作成の「憲法改正草案Q&A」は,「環境権という人権は,まだ個人の法律上の権利として主張するには熟していないので,国の責務として規定した」「現行憲法制定後の時代の変化に的確に対応するため国民の権利の保障の充実を考えた。……人権規定も,我が国の歴史,文化,伝統を踏まえたものである必要がある」と言う。人権は個人のみならず集団も持つとするのが近年できた諸外国の憲法の考えだが,共同体の権利を認めるまでに日本は変化していないので,集団の権利として環境権は先住民族の権利や発展の権利同様認めないらしい。環境権は日本国憲法13条の幸福追求権ないし私法上の人格権を根拠に主張され,人格権とセットで主張されるなら訴訟上の権利として認められると女川原発訴訟の仙台高裁判決は言う。本判決は環境権の権利主体として人民=共同体・集団を認めていない。

 筆者は,憲法改正をするのなら環境権は,個人と集団は健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受する権利を持つと記載すべきだと考える。理由は環境権の改正憲法での規定が国際協調主義になるからだ。規定内容は国連欧州経済員会採択の「環境に関する情報へのアクセス,意思決定への公衆の参加および司法へのアクセスに関する条約」と同じでよい。

 日本国憲法は日本国内において幅広く国民に支持され親しまれ信頼されるのみならず,日本が世界の中で果たす役割につき基本理念を憲法に示し,世界の中で日本が信頼され尊敬される国家である必要がある。現行憲法の原則が主権在民,基本的人権の尊重,平和主義なら,改正憲法の原則は,主権国家,法の支配,民主主義,基本的人権,国際協調主義だろう。改正憲法では対中・対韓の外交のみならず途上国への法整備支援に役立つという実践面も考慮すべきだ。集団自衛権明記の改正憲法草案は侵略戦争への反省を投げ捨て軍事大国日本を目指していると,中国と韓国は反日キャンペーンを展開するだろう。反日への反論が改正憲法条文自身にある国際協調主義だ。自民党憲法改正草案の環境規定は中国並みで,環境権明記の韓国に劣るから,両国に誇れない。中国は日本の憲法も我が国の憲法水準に近付いたと言い,韓国は憲法で劣る日本を言い募るだろう。

 大切なのは,日本は国際的にも尊敬できる憲法を持つ信頼に足る国だ,だから日本の法律を自国の法制度に取り入れようとの動きが途上国に広まることだ。2018年末の水道法改正ではコンセッションでの利害関係者と有識者による料金とサービス水準をモニターする条文を入れなかった。これは途上国で水道コンセッション事業に参入しようとする日本企業と民活インフラ輸出を支援する日本政府に不利に働く。中長期的な水道利用者の利益を考えた法制をアドバイスして受注しようとする日本企業に母国法による支援がない。

 2018年末,日本政府は89か国加盟の国際捕鯨委員会(IWC)脱退を公表した。日本提案の商業捕鯨一部再開案が否決されたからだ。安倍首相,二階自民党幹事長,浜田自民党捕鯨対策特別委員長の地元は捕鯨の伝統がある下関,和歌山太地,千葉県和田浦だ。400年の伝統を守ることは憲法制定後の時代変化に的確に対応しているのか。鯨肉が手近な安い肉として学校給食に出た半世紀前とは違う。脱退は日本への国際的評価を傷つける。ゴーン逮捕で日本の刑事司法は国際水準に照らし被疑者保護に問題があると国際社会に知られ国際的捜査協力が得にくくなる虞がある。2017年7月,国連総会は核兵器禁止条約を122か国・地域の賛成多数で採択した。日本は英米仏露と共に反対票を投じ,中国は棄権し北朝鮮は賛成した後不参加を表明した。唯一の被爆国日本が日米安保条約の下にあるので反対だとするのは,尊敬されない大国日本のイメージを作り国際協調主義に反する。

 憲法,条約,法律で多くの国から尊敬と信頼を得ることは,日本企業が世界における反貪欲資本主義によるビジネスをする際にも寄与する。中国の貪欲国家資本主義と米英仏露韓の貪欲資本主義によるビジネスと別の,信頼され尊敬されるビジネスモデルを持つ日本資本主義をアピールするために役立つ日本の法体系を目指すべきだ。

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