世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1250

ボーングローバル企業の事業構想力

髙井透(日本大学 教授)

神田良(明治学院大学 教授)

2019.01.14

 設立から数年以内に海外展開するボーングローバル企業(以下,BGC)は,自国市場が小さいために海外展開すると言われてきた。実際,自国市場が小さい北欧などにBGCが多いのも事実である。しかも,産業としては最初から世界に市場が存在する,ハイテク産業などから多く輩出されてきた。しかし,今やBGCは多様な産業で,しかも,母国市場の規模に関係なく,多様な国から生まれている。日本でもサービス産業から製造業まで幅広い分野でBGCが台頭してきている。本稿では,我々が調査した製造業分野でのBGCの事例調査からの発見をベースに,日本のBGCの戦略行動特性に関する若干の試論を展開してみる。

 まずは,BGCの代名詞である海外展開の早さについてである。海外展開の時間を圧縮できるのは,BGCの経営者が国内外でグローバルな事業の経験を有しており,その経験を通じて海外市場でのビジネス機会を見いだすからである。つまり,海外展開の可能性をいち早く見つけ出す事業構想力とも言える。そして,その事業の構想力を現実の国際化に結びつけているのが,BGCの経営者が既存のビジネスや海外経験を通じて培った人的なネットワークである。

 さらに事業の構想力は,経営資源の蓄積に関しても競争優位性の基盤を提供する。BGCの特徴は,世界市場にビジネス機会を見いだすだけではなく,資源の活用もグローバルに考えた上で,最初から世界市場をベースのビジネスモデルを構築する。そのため,段階的に国際化のレベル化(輸出から直接投資)を上げていく既存のグローバル企業とは異なり,海外進出の際に生ずる競争優位性の海外移転や変革というプロセスが不要になることから,グローバル化が一段と加速される。

 確かに国内での資源蓄積を最初に考えないからこそ,海外展開を加速させることになるが,大企業と比較して資源の脆弱性をどのように克服するのかということが,BGCにとっても海外展開する上での大きな課題になる。事実,BGCは既存の大手企業に対して,知名度や資源力などの点で,常に劣勢に立たされるという資源の壁に直面する。

 資源の壁を越えるために,BGCは外部企業の資源をうまく活用している。しかし,海外進出当初は,外部資源を活用するとしても,海外進出から数年経過すると外部資源だけではなく,独自性の高い内部資源を創り出すことが必要となる。実際,海外進出の初期段階では,アウトソーシングなどの外部資源を活用している企業も,進出後しばらくすると,一部,内部生産に切り換える傾向がある。製造分野のBGCの場合,やはり一部でも生産を内部化することで,独自性の高い競争優位性を創り出すことが重要になると考えられる。

 とはいえ,独自性を生み出すための資源蓄積のプロセスはBGCによって異なっている。海外展開するスピードが早いとはいえ,最初から波及効果の高いリードマーケット(以下,LM)に参入するBGCばかりではない。資源の壁を超えて,独自性のある資源を創るプロセスには,二つのルートがある。リード市場参入型と周辺市場参入型である。ふつうのBGCであれば,よほど資金調達が潤沢でなければ,同時に複数の国に海外進出することは困難である。まずは,近隣の国に海外進出するリージョナルBGCが多い。距離という空間の課題を越えるのは,BGCにとっても簡単なことではない。

 そのため,海外進出の当初は,LMからは参入せず,まずは近隣の国から参入することで,グローバル展開のノウハウや独自性の高い資源蓄積を行う。換言するならば,まずは周辺国市場に参入することで,資源の溜を創り,周辺国で競争優位性を高めてからLMに参入する。というのも,LMから参入した場合,当然,激しい競争にさらされるからである。資源の蓄積という背後に,競争への対応というシナリオが存在する。

 それに対して,LMから参入する企業は,ハイテクや医薬産業などの競争・市場環境の変化が激しい業界にいるBGCである。この業界のBGCは,LMでのビジネスチャンスの機会を逸することは,今後の成長の機会を失うことにもなるからである。ハイテクや医薬業界の場合,マーケットウィンドウは長くは開いていないため,敢えて資源をストレッチしても,参入する必要があるからであろう。そのため,LMに参入するために,国内である程度の資源の蓄積を行い,そして実績を作ってから参入するという戦略は必要不可欠な可能性がある。

 しかし,持続的に成長する方法ということに関しては,産業特性によってあまり影響を受けないのかもしれない。BGCも持続的に成長するために,既存のビジネスモデルをより進化させている。つまり,専業事業をより深めることで,顧客の事業システムに入り込み,顧客との関係性を強化すると同時に,競合企業からの模倣困難性を高めている。

 とはいえ,当初は専業型モデルでも,持続的に成長するために新しい事業を立ち上げるBGCもある。新規事業へと多角化するBGCは,創業時の事業そのものでの成長にこだわらず,メガベンチャーを目指すなどのより大きな事業構想力を有しているからである。すなわち,BGCとしての目指すべき到達点が違うからであろう。その意味でも,改めて企業創業時の事業構想力がグローバル化の速度だけではなく,事業展開にも大きな影響力を及ぼすことが理解できる。

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髙井 透

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