世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1325

地方創生と結びつく老舗のグローバル化

神田 良

(明治学院大学経済学部 教授)

2019.04.01

 国内市場が縮小する中,純粋に日本市場での顧客を対象として事業を展開してきた企業にとっては,海外市場での顧客をターゲットとする戦略転換が求められている。実際,国も日本の魅力発信を支援すべく多くの対策をとっている。例えば,アウトバウンド対策としてはクールジャパン政策を推進して,企業の海外進出を促進させようとしているし,インバウンド対策としては観光立国政策を掲げて海外からの観光客の増加に努めている。しかも,そうした政策は着実な成果を生み出しつつある。

 日本の国内市場で国内を対象として着実に事業を展開してきた企業の代表例としては老舗企業を上げることができよう。しかも,こうした老舗企業は全国各地に広く存在する。各地域に深く根を下ろし,その地域で主に地域の顧客に対して愛顧されてきた企業である。彼らが提供する商品・サービスは,この意味でその地域と密接に結びついたものである。それは原則として,その地域に足を運び,そこで手に入れることに大きな意味を持つものと考えうる。地域の魅力と老舗の魅力が一致することで,商品・サービス価値が生み出されているとも言える。

 ところで,地方創生が声高に叫ばれている。老舗の研究を続けてきた研究者としては,地方で活躍している老舗という地域資産を活用することの可能性を模索している。実際,日本生産性本部の地方創生カレッジで,実践的な試みにも挑戦している。地方で地域活性化に貢献している老舗企業を取り上げ,その魅力をビディオで情報発信するプロジェクトである。同様のプロジェクトは東京商工会議所中央支部の老舗企業塾でも挑戦している。共通しているのは,老舗企業の魅力を地域の魅力と連動させ,それをより分かりやすい映像に編集すること,若い学生の視点でその魅力を伝えること,さらには英語の字幕を使いインバウンド市場への発信を試みるということである。

 日本の社会が長期間にわたって育んできた日本的な商品やサービスは,その商品という有形資産だけでは伝えきれるものではない。その背景にある歴史や企業の思い入れ,そうした企業を支えてきた地域の人々や暮らし・文化などいった無形資産にも伝えるべきものがある。しかも,有形資産である商品は比較的簡単に模倣できるかもしれないが,こうした無形資産は模倣困難性が伴う。そこにこそ,日本でしか,さらに言えばその地域でしか手に入らない価値があるとも言えるし,そうした無形資産は現地を訪れ,実際に作り手と触れ合うことではじめて感じることができるものでもある。その価値を発信し,その価値を認める顧客との関係性を構築することが,地域創生にもつがるのではとの思いである。

 事実,このようなグローバル化に挑んでいる老舗もある。例えば,新潟県燕三条の鎚起銅器製造販売業の玉川堂である。7代目当主,玉川基行社長は,社長就任以来,多くの企業変革に挑んできた。自社のグローバル化も推進し,売上高の半分以上を海外顧客にまで広げた。しかも職人が思いを入れて商品を製造することに価値を見出し,取引先には必ず燕三条の本社工場に来てもらい,現場を見学してもらう。こうして商品価値,価格の妥当性を理解してもらっている。

 加えて,工場見学を積極的に実施して,年間6,500人以上の見学者を受け入れている。また燕三条の近隣工場と協力して「工場(こうば)の祭典」を毎年実施している。国際産業観光都市へと地域の魅力も発信し,海外からの観光客も増加傾向を示しているという。

 地方の老舗がもつ魅力を地方の魅力と合わせて国内だけでなく,海外に向けても発信する。老舗のグローバル化は可能性を秘めていると思われる。

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