世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1236

新たな経済社会の枠組み

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2018.12.31

所得格差の悪化

 グローバリゼーション化は,世界で一番安い賃金に資本が動き,世界の賃金水準を引き下げ,所得格差を拡大する。ピケティの調査の通り,アメリカは1981年から急速に所得格差が拡大し,一部の富裕層が社会の富を独り占めし,国民中間層が貧困化してきた。国際NGO「オックスファム」は,2016年に世界で最も裕福な8人の資産の合計が,世界の人口のうち,経済的に恵まれない下から半分(約36憶人)の資産の合計とほぼ同じだったと報告した。アメリカの1人当たりのGDPは2001年から2015年に14%増えたが,賃金の中央値は2%しか上昇していない。所得格差が悪化することは,国民中間層の所得の低下で,これはその国の市場における需要が低下することになり,経済の衰退になる。

 このグロ―バル化の行き過ぎによる国民経済の衰退はアメリカだけではなく,世界の殆どの国にも蔓延してきている。EUの国々はもっともひどい。EUはヨーロッパの国同士に戦いはもうやめようとして創られたが,通貨ユーロを統一しただけで,EU本部のブリュセルがいろいろの規制をつくり,国としての経済・金融コントロールの余地を与えていない。そのためにギリシャ,イタリー,スペイン,フランスも経済が衰退していて,国民大衆は貧困し大きな問題を抱えている。フランスは比較的平等な国であるが,それでも1983年から2015年で,上位1%の再富裕層の平均所得は100%上昇したが,その他の層の国民所得は25%以下であった。マクロン大統領はこのために突き上げられている。ドイツはいち早く移民を入れ,更に東方諸国を取り込み,低賃金労働で生産した商品を安いユーロを利用して輸出ドライブをかけて外貨を稼ぎ,EUの中で一人勝ちしているが,しかし労働者の賃金は安く,国民大衆の貧困と生活苦が最近メルケルにノーを突き付けた。イギリスのメイ首相は「行き過ぎた資本主義を見直すと同時に,格差を解消し,既得権益と戦う」と宣言したが,イギリスには二つの問題がある。EUに所属することで国としての主権が行使できないことが大きな問題であるが,そのために起こった経済の停滞で,国民大衆が貧困に喘いでいることをメイ首相は十分理解していないのだと言われている。日本は,アメリカの属国になっているのではと言われているが,グローバル化によっても国家主権が削がれているのに気付いていない。日本にはアメリカのようなスーパーリッチがいなので,1%対99%という数字が出ていないが,国民中間層の深刻な貧困の問題がある事を為政者は正しく認識していないようだ。特にこれから日本を背負っていく子供,若者層の貧困が深刻である。中国では古くから「民は胃の腑で動く」と理解されているが,為政者をこれを肝に銘じなければならない。

主権のある国民国家

 資本主義経済の国家は,企業,国民が市場を通じて商品の生産を行い,購買力を持つ消費者としての国民に財とサービスを提供するシステムであり,働けず,購買力のない人に生活を保障する仕組みを持つものである。そうした人を保護するのはその国家でしかなく,グローバル企業ではないし,EUにおけるブリュッセルでもない。そして経済力を高めるために,国家の仕事として,その国にとって必要な産業を育成し,国際環境の中ではある時期それを保護することも必要になる。その国の経済の発展のために,イノベーションのための適切な産業政策,財政政策,金融政策を施行する必要がある。しかし現在のグローバル化の波は,そうした国民国家の「主権の施行」を阻んでいる。強者のアメリカ国家自身も,経済の衰退でも悩まされているのだ。つまりアメリカ自身が,グローバル化のために,自分の国の経済を守れていないのである。トランプは,それを中国や日本のせいにしているのだが,その本当の元凶はグローバル化であると理解しているようだ。

 つまりグローバリゼーション化が,国家の主権を奪い,国は衰退してきているのである。エコノミストは「人々は自分の人生を自分で決められないというか,グローバル化の果実にあずかっていないと感じたとき,思わぬ攻勢に出る」と言っている。

 マレーシアの首相に再挑戦したマハティールは,経済の発展段階の違う国には,これから育成すべき産業を保護する権利を与えられるべきだと訴えている。先進国でも技術の進化により,新しい産業を国として育成しなければならないことはこれからどんどん出てくる。

グローバリゼーションの行き過ぎの是正と新しい経済社会の枠組み

 資本主義経済のこれまでの歴史では,「飽くなき利益を求めて地球を駆け巡るグローバル化」と「経済衰退による国内の不満をかわすための保護主義」が何度も交互に繰り返されてきたが,人類はそろそろ英知を働かせて,最も適切な資本主義経済としての統治構造を創り,発展する道を創らなければならない。

 それには国際的な活動は,比較優位の生産で国際分業の体制を整備するころである。国際分業での交易で国民経済の発展を図る道を創り上げる必要がある。

 アメリカで,1930年から1970年の間のアメリカの資本主義黄金時代に築きあげた経済社会の制御装置である「奔馬と業者」というシステム構造がある。経済社会の「拮抗構造」をつくり,独占を禁止し,イノベーションを興すことにより産業経済の発展,国民の富を築き,国防力を強化するのがアメリカの国の骨格になっている。イノベーションを殺すような独占を禁止し,しかも資本の暴走を制御しようとする仕組みである。

 しかし,このアメリカの奔馬と御者という資本主義経済の制御の仕組みは,1971年「市民・労働者の権利を剥奪せよ」との檄で,ルイス・パウエル等のグループにより破壊されはじめ,現実には1981年からミルトン・フリードマンの新自由主義でレーガン大統領が仕掛けたグローバリズムにより,その制御装置が破壊された。グローバル企業も野放図にリストラができるようになり,アメリカ経済は衰退していった。

 これを再度修復し,グローバル化の行き過ぎを是正する必要がある。またアメリカの「奔馬と御者」という資本主義の制御装置を参考にして我が国の経済の制御装置を確立しなければならない。

 同時に無制限なグローバル化ではなく,「比較優位生産による国際分業」ができるような世界的な枠組を再整備しなければならない。特に国際的な資本の移動の制御,貿易の管理ルールを再整備する必要がある。実は中国は2001年にWTOに加盟したが,WTOのルールに違反しているところがあり,これを正すべくWTOの改革の動きが進んでいる。特に知的財産権に関するルールの整備である。中国のグローバル化の行き過ぎが世界経済にとって最も危険なことであり,これを制御しなければならない。言うまでもなくアメリカの行き過ぎも正さなければならない。原則は「自国で受け入れられないことを,他国に押し付けるべきではない」ということである。これが進めばグローバル化の行き過ぎが是正されることになる。同時に,新しい問題としてデジタル産業であるGAFAなどの独占化,囲い込みの禁止を含めた国際ビジネスのルール化を整備しなければならない。

 そして廃れた社会道徳,社会規範を再度植え付けなければならない。米フォーチューン誌1944年10月号に載った事業家ベントン・ウイリアムの論文がある。タイトルは『自由社会の経済学』で「今日,勝利が我々の目標だ。明日の目標は,雇用や平時生産の創出,高い生活水準,機会の付与。必要かつ適切な政府の規制。企業が利益を得るために地域社会の繁栄を犠牲にしない。賃上げの実施」とある。アメリカにおいて,1950年から1960年にかけて中間層の所得は上位層よりも速いペースで伸びた。こうした規範が1940年代にはできており,これでアメリカの黄金時代が生まれたのである。

 トランプは,ひょっとしたら弾劾によって大統領を辞めることになるかもしれないが,彼の動物的感覚で発した警告を我々は大切にしなければならない。トランプの真意がどうであるかは定かではないが,そろそろグローバリゼーション化の行き過ぎを是正するべき時に来ているようだ。トランプは,グローバル化の行き過ぎが悪いことの意味を自分自身では明確に意識していないようだが,動物的な感覚で,それを変えようとしているようだ。ヘーゲルは,時代を変えるのはこのような人間であると言っていた。

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