世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1198

南北アメリカにおける「入」移民と「出」移民

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学教育学部 教授)

2018.11.05

 このところ国際経済関係のニュースに耳を傾けると,移民もしくは外国人労働者に関連した話題が目白押しである。この国においても単純労働者のレヴェルにまで降りてきている。看護師・介護士・家政婦そして各種現業職というように。この国は生産年齢人口がじょじょに減少してきていて,日本人だけですべての面倒をみるのは無理な状況にあるのは,たしかなことだ。今後そのことから派生するであろうさまざまな副次効果も,予想される。

 歴史的にみればこうした現象は移民問題として捉えられる。それは「入」移民と「出」移民に大別される。とうぜん日本にやってくる外国人は「入」移民に分類される。歴史上大規模な移民といえば,南北アメリカにおける国家の形成過程が有名である。米州各国は移民によってできたといっても過言ではない。歴史的事情によって,先住民の痕跡が打ち消されたからだ。その過程には奴隷制度や奴隷貿易などがともなっていた。言い換えるなら,それは「強制」移民もしくは「非自発的」移民であった。もっというならば,アフリカ大陸の黒人が無理やり連れてこられたのだった。それとは逆に,中南米の支配者となったスペイン人やポルトガル人は「自発的」移民である。そしてかれらの子孫がクリオールとなる。そして先住民や黒人との間で混血化が進んだ。メスチッソ,ムラート,サンボというように。

 他方において北アメリカではどうだったか。イギリス人,フランス人,およびオランダ人はヨーロッパからの自発的「出」移民となって,真新しい国づくりに寄与したのだった。北アメリカでも奴隷貿易によって,アフリカから多くの黒人を連れてきたが,この地域においては,中南米に比して先住民や黒人との間で混血は進まなかった。こうした事情の違いは,カトリックとプロテスタンティズムとで文化的背景が異なることに求められよう。

 ところで現在の南北アメリカの移民事情はどうなっているだろうか。これはアメリカ合衆国におけるトランプ大統領の出現こそが,ある意味において象徴的出来事である。それはメキシコと合衆国との国境を越えて後者へやってくるヒスパニック系移民の存在によって語られよう。とうぜんながらかれらは,メキシコ内で働くよりも合衆国で働くほうが稼ぎが多いといった経済的動機によって,突き動かされてやってくるのだ。アメリカ史から見れば,かれらは比較的新しい「入」移民に他ならない。結果的に既存のアメリカ人との間で職の奪い合いが起きた。言い換えるなら,究極的にはアメリカ白人と「入」移民のヒスパニックとの間での争いである。その結果,前者の利害を代表するものとしてトランプ氏が登場したわけだ。

 そして近年,中南米でもちょっとした移民現象が起きている。社会的もしくは経済的不安定から,ニカラグアやベネズエラからの「出」移民が増加傾向を示している。かれらはどこをめざしているかといえば,前者は比較的近くて相対的に富裕なメキシコであり,後者は同様の理由でブラジルである。とくに前者のケースは,合衆国とメキシコとニカラグアとの間で「入」「出」移民の三重構造を呈していることになる。他方においてベネズエラでは,典型的ポピュリストだったチャベスの登場を見たが,やがてかれの死亡とともに経済は低迷した。その背景はいまとなっては明らかとなったが,新興国中国からの原油需要の低下によって一気に経済が悪化したことに求められる。つまりこの国は構造的にオイルマネーのみが頼りの綱だったわけだ。あれよあれよという間にハイパーインフレーションまで引き起こしてしまう羽目となった。そうして「出」移民の帰結にいたる。

 このようにみてくると,南北アメリカの幾多の地域において,歴史的・社会的・経済的事情から「入」移民と「出」移民が繰り返されてきたことがわかる。

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