世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1155

「一帯一路」と「自由で開かれたインド太平洋戦略」について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2018.09.10

 2018年9月3,4日,北京で中国アフリカ協力フォーラムが開催された。中国は今後3年間で600億ドル(約6兆6000億円)の支援を表明した。この会議に合わせるかのように,改めて中国による開発途上国への巨額の援助が注目されている。中国主導の経済圏構想「一帯一路」の下で,アジアやアフリカの途上国を中心にして,巨額の資金援助を実施して,道路や鉄道,港湾などの経済インフラ建設を支援しているこれらの支援は,途上国の経済発展のために行われているが,これらの支援は無償ではなく,ほとんどが借款であり,その利子率も高い。また,パキスタンやラオスなどがしばしば例として取り上げられるが,中国の援助は途上国に過剰な債務を負担させており,IMFなどからその持続可能性を疑問視されている。また,スリランカのように,返済不能になるとインフラの運営権を譲渡させるなど,中国の支援にはかなり批判が多い。

 一方の日本は中国に対抗するかのように,「自由で開かれたインド太平洋戦略」を安倍晋三首相が2016年8月に正式に対外発表した。「自由で開かれた」とは自由と法の支配,市場経済を重んじることを意味している。この戦略は日本が提案したが,日本単独で主導するのではなく,他の諸国,アメリカ,オーストラリア,インドと協力して,推進するとしている。これは戦略としては打ち出されたが,この戦略に基づく具体的な援助案件などは明確になっていない。

 以上,「一帯一路」と「開かれたインド太平洋戦略」を巡る現状を簡単にまとめた。これをどう解釈するかについては,リアリズム的な視点からのものが一般的である。アジアには地域の主導国が2つある。それは,中国と日本(とアメリカ)である。この2国が互いに勢力圏争いをしているという解釈である。この立場に立つと,アメリカは現在,トランプ政権の「アメリカ第一主義」の下で,アジアへの関与を減らしているので,日本はオーストラリアやインドなどと協力して,この戦略を推進して,中国とバランスを取ろうとしている。

 つまり,リアリズムの観点から見ると,「開かれたインド太平洋戦略」は現時点で,安全保障協力の色合いが濃いものである。一方,「一帯一路」は現時点で,経済的な開発協力の意味合いが強いものである。

 この協力の意味合いの差を埋めることは,アジア地域の安定に重要であり,ここに日本の外交の力点を置くべきである。先述した「一帯一路」に関する援助の批判は,かつて日本の援助にも言われたものである。中国は日本のODAの支援で経済発展した経緯があり,その経験を踏まえた援助をしており,日本の援助と似ている。つまり,日本は対外援助に関する知識や経験などを中国に潜在的にアドバイスできる立場にあるので,それを利用するのである。現在は日米が主導するアジア開発銀行(ADB)と中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の協調融資を通じた間接的な関係のみであるが,日中両政府による援助の直接的な協力,例えば三角協力などを視野に入れた関係強化を目標とすべきである。かつ,「開かれたインド太平洋戦略」を安全保障協力のみならず開発協力を含む包括的な協力戦略にするには,太平洋諸国については,オーストラリアやニュージーランドと開発協力を推進し,南アジアではインドと開発協力を推進すべきである。

 日本をハブの中心にして,一方には中国,もう一方にはアメリカ,オーストラリアやインドと連結した関係を構築できるか,日本の外交は今,正念場を迎えているのである。

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