世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1055
世界経済評論IMPACT No.1055

中国の航空貨物市場をめぐる確執:EC拡大を契機に競争激化

小島末夫

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2018.04.16

 国際エクスプレス便の小口貨物輸送分野で圧倒的な存在感を示すのが,一般にインテグレーターと呼ばれる欧米系国際物流大手企業である。米国のフェデックス・エクスプレス(FedEx)はその一つで,本年1月初め中国上海の浦東国際空港内にコールドチェーン設備も完備した「上海国際エクスプレス&貨物ハブ」(敷地面積13.4万㎡)を正式オープンしたのであった。この新ハブは,本拠地のある米国テネシー州メンフィスの「スーパーハブ」を除くと世界最大の規模を誇るという。

 同社は従前,アジア太平洋地域においては広州,シンガポール,関西の各空港にそれぞれハブを開設済みである。そのうちメインの「アジア太平洋地区ハブ」(敷地面積8.2万㎡)が置かれた中国広州の白雲国際空港では,そこを中核とする「アジアワン」というグローバル・ネットワークが既に構築されている。今回はそれらに加えて4番目となる拠点の施設が新しく整備されたことを意味する。現在,浦東空港での自社貨物機(フレイター)の発着便数は週66便を数え,主な役割としては,中国の華東地区と欧米間での接続性や利便性の向上を図ることが謳われている。つまり,中国への空の玄関口・上海浦東空港における新たな拠点強化で国際航空貨物需要の更なる獲得を目指し,特に米国と欧州向け航空貨物市場へのアクセスを一段と高めながら今後の成長を牽引していくことが期待されているのである。

 こうして1999年(建国50周年)の開港後20年近く経つ上海浦東空港は,世界でも他に類例のない三大インテグレーターが揃って貨物ハブを構えるという,まさに稀有な空港となった。何故ならば,当空港にはこれまで米国のUPSが今から10年ほど前の2008年12月に大型国際ハブを,次いでドイツポスト傘下のDHLが2012年6月に「北アジアハブ」をそれぞれ開設するなど,競合相手がいずれも進出を既に果たしているからにほかならない。このため,同空港は欧米系インテグレーターにとって今や中国の一大拠点として急浮上しつつある。

 文字通り三つ巴の争いが繰り広げられる状態から,今後は中国地場の大手航空宅配企業(順豊速運〈SFE〉など)をも巻き込んだ相互間の熾烈な競争がますます激しさを増していくものと考えられる。

 国際空港評議会(ACI)が毎年公表しているデータによると,世界の航空貨物取扱い上位空港ランキングでは,上海浦東空港が直近まで9年連続で世界第3位の実績を維持し続けている。例えば,2016年における同空港の航空貨物総取扱量は,前年比5.0%増の合計344万トン(内訳は国際貨物が252万トン,国内貨物が82万トン。注:原文資料のまま)を記録した。これは,世界1,2位である香港空港の461万トン,メンフィス空港の432万トン(うち国際貨物51万トン,国内貨物380万トン)に次ぐもの。当該の内訳数値により上海浦東空港の場合は,メンフィス空港と比べ対照的に国際貨物の取扱い比率がかなり高いのが特徴的である。また,ベスト3の中に中国の香港および上海浦東の両空港がランクインしており,しかも上位20傑の空港全体の総取扱量に占める割合が,合わせて17%にも上っていることは特筆される。

 ところで,上記の欧米系インテグレーターの独壇場となっている主な舞台こそ世界の国際エクスプレス市場である。そうした大手物流企業の積極的なグローバル展開に伴って,世界の航空貨物輸送全体の中で国際エクスプレス関連の取扱シェアは着実に上昇を遂げている。米ボーイング社の調べでは,1992年の段階において総量のわずか4.1%を占めるにすぎなかったものの,2008年時点の13.4%を経て,2015年には同シェアが17.6%へと2割近い水準に至るまで大幅に増大していることが分かる。さらに注目に値すべき点は,リーマンショックが発生した2008年以降,そのエクスプレス貨物事業の取扱高が増加した分の概ね約半分が,実は国境を越えたEC(電子商取引)配送の拡大によってもたらされたものだという事実である。

 このように,今日ではネット通販などによるECの急成長を契機として,EC関連商品の輸送需要が国内エクスプレス分野に止まらず,国際部門(越境EC)でも拡大するような傾向にある。とりわけ,中国内外における小口急送貨物の取扱量の急増には全く目を見張るものがあり,中国は2014年には遂に米国を追い越し,それ以来,世界最大のエクスプレス便市場に躍り出ているのである。

 そうした中で最近の新たな動きとして,中国のEC最大手アリババ傘下の物流企業である菜鳥網絡(2013年5月設立)が,集団本社のある中国浙江省の省都杭州市とロシア・モスクワの間を結ぶ国際貨物の定期航空便(初のEC専用)の運航を本年3月末に開始したと伝えられる。向こう10年以内に「全世界72時間配達」の大目標を掲げ,それを実現していく方針とのことである。

 要するに,中国ではこのEC事業が航空貨物市場にも多大な影響を及ぼしてきており,同国全体の物流拡大にとっても重要な牽引役になっていると言えるのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1055.html)

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