世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1010

ブロックチェーンは万能薬ではない

川野祐司

(東洋大学経済学部 教授)

2018.02.12

ブロックチェーン技術とは

 ブロックチェーンはデータを分散して保存する分散型台帳技術の一つである。誰でもデータを閲覧できるのに改竄が困難で,データを管理する複数のPCが攻撃されてもデータの安全性が保たれることから大いに注目を集めている。

 ブロックチェーン技術はPCやインターネットがなくても利用できる。文房具を使ったブロックチェーンを考えてみよう。支払い情報を紙の台帳に記入して封筒に入れる。封筒には台帳を複数枚入れることもできる。封筒にはラベルを貼る。ラベルには#500120などのナンバーと1つ前のナンバー(#500119)とのつながりを表す記号を記しておく。全ての封筒を#0から順に並べ,箱に入れて保存する。紙の台帳やラベルをコピーして同じ内容の箱をいくつか準備してそれぞれ別の場所で管理する。箱の中身が正しいか定期的に互いに確認し,新しい封筒が創られると,それをコピーして全ての箱に追加する。封筒がブロック,ラベルがブロックヘッダー,ラベル上の記号がハッシュ値,箱がブロックチェーン,定期的な確認がP2Pネットワークになる。

 ある箱が火事で燃えたり,一部の封筒の中身が書き換えられたりしても,他の箱と中身を確認し合い,間違ったデータがあればコピーし直す。火事や書き換えが攻撃に相当するが,P2Pの仕組みによりシステム全体のデータが安全に保たれる。その反面,箱のサイズが大きくなると箱の保管や定期的な箱の確認にはかなりコストがかかる。また,ブロックチェーンへの参加者(ノードという)が少ないと攻撃が成立しやすくなる。ノードが1つしかなければ,攻撃者は1カ所だけ攻撃すればいいからだ。

利用が広がるブロックチェーン

 ブロックチェーンは当初はビットコインなどの仮想通貨に利用されていた。ビットコインの取引情報はブロックチェーンに記述され続けており,ブロックの数は51万に近づいている。その後,ブロックチェーンには様々なプログラム(スマートコントラクトという)を書き込むことができるようになり,クラウドファンディングなどの金融取引が可能となっている。最近はブロックチェーンのデータの堅牢性に注目が集まっており,証券のポストトレードやダイヤモンドなどの存在証明にも利用されている。

 現在,世界で最も安全なブロックチェーンはビットコインのブロックチェーンだが,データの処理速度の遅さや手数料の高さがネックになっている。これを克服するために,大きく2つの方法が試みられている。第1はオフチェーン(またはサイドチェーン)と呼ばれる方法であり,自前のシステムでデータの処理をし,処理済みの圧縮データのみをビットコインのブロックチェーンに書き込む方法である。Counterpartyなどのサービスが実用化されている。第2は自前のブロックチェーンを構築する方法であり,コンソーシアム型ブロックチェーンと呼ばれている。コンソーシアム型では参加するノードを制限することができるため,悪意のあるノードによる攻撃の可能性を減らすことができ,処理速度が速くなり,コストも低減できるとして大いに注目され,様々なサービスが始まろうとしている。

コンソーシアム型ブロックチェーンの問題点

 コンソーシアム型ブロックチェーンの3つの利点のうち,処理速度については一般に言われている通りだが,攻撃への安全性とコストについては注意が必要だ。まず,コストについては,これまでのサーバー=クライアント型のデータベースに比べて,サーバーの管理コストが下がることは間違いない。しかし,これまでクライアントとして機能していたノードについては,P2Pネットワークに参加するため常にネットワーク帯域を占有し,運用のための教育コストやデータ保存のためのストレージなどが必要となるため,管理コストが高くなる可能性が高い。

 攻撃への安全性については,全てのノードに高レベルのセキュリティー対策が必要となる。コンソーシアム型ではノード数に制限があるため,一つのノードを攻撃してウイルスに感染させ,ワームを広げることでネットワーク全体を乗っ取ることができる。データ流出などの攻撃元が内部者であることが多いことが知られているが,コンソーシアム型は内部者の攻撃に対して脆弱であることには注意が向けられていない。

考えなければならないこと

 ブロックチェーンには多くの人々や企業が群がっている。確かにブロックチェーンは様々なことに利用できる。しかし,分散型データベースやクラウドサービスなどの方が適していることも多い。ブロックチェーンは単なる技術の一つであり,万能薬のように語ることは間違っている。また,新しいサービスを始めるにあたって,なぜそのサービスが必要なのか,そのサービスは我々の生活をどのように変えるのか,などのビジョンが明確にあるのかを問うべきであろう。流行っているから,簡単に収益が望めそうだから,では成功は覚束ないだろう。

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