世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1002

20世紀型成長戦略の幻影

小野田欣也

(杏林大学総合政策学部 教授)

2018.01.29

 6年前,2012年の『通商白書』はサービス貿易を取り上げ,日本のサービス貿易の少なさや海外進出の遅れなどを指摘していた。2010年頃のデータが中心だが,この頃日本は依然製造業中心の貿易・直接投資が主流であった。20世紀が石油と製造業の時代であると仮定すると,まさに20世紀型成長戦略の幻影を引きずっていた。

 翻って現在のアメリカを見ると,トランプ政権はTPP,パリ協定からの離脱,NAFTAの再交渉を進めている。ラストベルトの支持を背景に国内製造業の復権,減税による対米投資の誘致,ドル安による輸出拡大,バイ・ラテラリズムを主流とした貿易交渉などは,まさに1980年代のアメリカ国際戦略を彷彿とさせる。その一方,AIやサービス業など21世紀型産業で活躍が期待される移民や外国人労働者を規制するなど,産業政策は迷走気味である。

 1月25日現在スイスで開催中のダボス会議では,独仏の首脳などがアメリカ第一主義やグローバリズムの分断を批判する一方,ムニューシン米財務長官のドル安容認発言に続き,トランプ大統領が多数の閣僚らとともに乗り込み,おそらく20世紀型相互主義の通商戦略を繰り返すのであろう。

 トランプ政権のTPP離脱は,TPP11ヶ国の実質的合意や,中国の一帯一路戦略への日本の接近など,アメリカ抜きでの新たなグローバリズムの動きを加速させる。アメリカは元来,バイ,リージョナル,マルチのスリー・トラック・アプローチ,あるいはバイとマルチのツー・トラックアプローチを用いて国際貿易を進めてきたと言われている。その一方で日本は,20世紀を通じGATT−WTO中心のマルチラテラルが主流戦略であった。

 しかし21世紀からは日シンガポールEPAをはじめとして,バイ,リージョナル,マルチのスリー・トラック・アプローチを採用した。また,国内の少子高齢化を背景に製造業だけでなく宅配業や外食産業などサービス業での海外展開を活発に実施している。政府のグローバル・ネットワーク作りと産業界の海外展開は,日本の国際化のみならず,不確実な世界経済のリスクからの耐久力を確実に強化している。トランプ政権の混乱や円高リスクなどの影響も,10年前のリーマン・ショックの頃とは格段に異なる対応力を有している。

 アメリカが製造業,ドル安,二国間貿易交渉など20世紀型成長戦略を再登場させる一方,日本は21世紀型成長戦略に舵を切っている。日本にとって現在のトランプ政権は案外御しやすい相手なのかもしれない。

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