世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.988

トランプ政権の黒幕マーサーから目を離すな!

吉川圭一

(Global Issues Institute(株) 代表取締役CEO)

2018.01.15

 バノンがウルフという人物の書いた本の中で答えたインタビューの内容がトランプ大統領を激怒させた。その理由はライバルとも言われるクシュナー顧問のロシア疑惑に言及したのみではない。同書でバノンはトランプに挑戦し2020年に大統領になろうとしていると仄めかされている。その場合バノンはトランプと彼のスポンサーのマーサーに資金提供を依頼するつもりだった。だがマーサーは,それを拒否した。しかしバノンが経営するニュース・サイトBreitbart から資金を引き上げることはしないようだ。これでバノンも,自らが大統領になることは諦めると思われる。今までの経緯からするとトランプとバノンの和解も何れ起こるのではないか?

 というのはマーサーが経営しバノンも関係するケンブリッヂ・アナリティカ社というビッグ・データを駆使した市場調査の会社が立案した選挙戦略こそがトランプを大統領にしたのである。バノンが政権を去った後も同社の戦略でバノン派の候補が共和党主流派系候補者に予備選では勝っている。その候補者が本戦で負けたのは,悪質で計画的な選挙妨害をされたためだ。それでも僅差で負けた。それほど同社の計画は精密なのだ。マーサーはビッグ・データを駆使した金融ビジネスで巨万の富を築いたがリーマン危機を契機として改心し今はグローバル経済反対の超保守派である。バノンと非常に良く似た経歴の持ち主なのである。そしてトランプ本人も同様の思想的遍歴を辿った可能性が,彼が党派支持をリーマン危機前後に変えたこと等から推測可能である。

 ところでバノンがクシュナーを批判したのは,彼が経済グローバル化肯定論者だからだろう。その証拠にバノンは,クシュナーを単にロシアとの共謀で批判しているのではなく,それに関するグローバルな資金移動等の問題で告発される可能性が高いと述べている。前述したがバノンもスポンサーのマーサーも,リーマン危機を契機にグローバル化慎重論者になった人物である。

 バノンとトランプの関係悪化は,共和党の主流派にとって極めて望ましいものである。彼らはグローバル化肯定論者だからである。実際,主流派の代表者の一人のロムニーが,2020年大統領選挙でトランプに挑戦する動きもある。

 しかし例えばウイスコンシン州は,今年の中間選挙で民主党現職の上院議員に共和党の候補者が戦わねばならない選挙区で,トランプがヒラリーに勝った州でもある。だが共和党主流派は候補者の一本化に難航している。バノンは,この州の共和党予備選挙で,デヴォス教育長官の兄弟で民間軍事会社元社長プリンス氏を,主流派系候補に対し刺客として差し向けると言われている。

 バノンが政権内にいる時に,アフガンへの増派は正規軍を使うのではなく,民間軍事会社を使うべきと主張し,クシュナーも反対しなかった。だが軍部出身の閣僚達の反対で実現しなかった。それもバノンが政権を去った理由の一つとも思われる。つまり二人とも必要以上の対外介入は避けるべきという考え方は一致しているのである。

 このようにバノン=クシュナー関係が本当に悪いかは微妙と思われる。何れにしてもフリン元大統領補佐官の証言の関係で,クシュナーが起訴される可能性は高まり影響力低下は既に起きている。それは12月18日に発表された新安全保障戦略で,グローバル経済肯定論者が貿易等の関係から重視する中国に対し厳しい態度が示されていることからも理解できる。

 こうして考えてみるとトランプとバノンが和解する事は,あり得ないことではない。今までもトランプは,一旦は対立した人物を,再び重用したことが何度もある。バノンも政権を去った後も,実は携帯電話で頻繁にトランプの相談に乗っていた。クシュナーの影響力が低下し,経済グローバル化慎重論の方向にトランプが行けば,バノンの出番も出て来るかも知れない。

 それ以上に前述したマーサーが経営しバノンも今のところ関係し続けているらしいケンブリッヂ・アナリティカによる選挙戦略の立案がなければ,今年の中間選挙は愚か2020年の再選も,トランプが乗り切るのは難しい。ましてバノンが米国の草の根保守に支持され続けているBreitbertを維持し続け,それに批判されれば,トランプにとり致命傷になりかねない。

 バノンは1月7日に彼の発言内容を大幅に修正する声明を出している。そして今後もトランプを応援し続けると宣言している。だがクシュナーの資金洗浄疑惑等に関しての修正発言はなかった。やはり彼はグローバル経済肯定論を許せないのだろう。

 1月7日のバノン氏の声明等を契機として,時間は掛かってもトランプ,マーサー,バノン達が和解し,再びグローバル化と戦うことを心から願いたい。グローバル化とは一部のエリートだけを金持ちにし,その他99%の一般人を生きて行けなくさせる,極めて危険な側面のあるものだからである。

 この三人の動きには今後も注目し続けるべきだろう。それは日本の貿易政策等にも,重大な影響を与えると思われるからである。

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