世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.986

資本主義経済の終焉? ポスト資本主義経済?:(その2)

三輪晴治

(エアノス・ジャパンGK 代表取締役社長)

2018.01.08

(2-2) 限界費用がゼロになる

 このように資本主義経済活動の基本は,商品生産の機械化,省力化,自動化であり,労働者を排除する過程であったが,そのコストダウンの技術が,デジタル化,ソフト化,IoT化,AI化になると,これまでの大量生産時代のコスト・リダクション,労働者の排除とは質的に違うものになってきている。こうした生産工程の自動化が進むなかで,製品を一個作るために必要な追加費用としての「限界費用」がだんだんゼロの近づくという現象がでてきた。言うまでもなく直接の追加費用の内容は労務費と原材料である。労働者が排除されると同時に,原材料の省資源化,ナノテクノロジー化,さらに商品がソフト,デジタル商品になると,文字通り「商品限界費用」は限りなくゼロになる。しかし資本主義経済では,商品がタダになることはその経済活動の基本原理が崩れることになる。

 「資本主義体制の推進力は,熱力学的効率を上げることでもたらされる生産性の向上だ。その過程は熾烈を極める。競争者がみな我先に生産力の上がる新技術を導入し,自社の生産コストを下げ,財やサービスの価格を下げて,買い手を引き付けようとするからだ。この競争はしだいに激しさを増してゆき,やがて最終目標に近づく。そこでは最高の効率が達成され,生産性が頂点に達する。つまり生産量を一ユニット増加させる限界費用は,ほぼゼロになるのだ」(『限界費用ゼロ社会』ジェレミー・フリキン),「直接的形態での労働が富の偉大な源泉であることをやめてしまえば,労働時間は富の尺度であることをやめ,やめざるをえないのであって,したがってまた交換価値は使用価値の「尺度」であることをやめ,またやめざるをえないのである」(『経済学批判要綱』マルクス)

 この限界費用がゼロに向けて現在の産業はまっしぐらに進んでいるが,デジタル商品では「限界費用ゼロ」,つまり「タダの商品」がすでにそれが実現している。ソフトの複製は費用は殆どゼロである。ウィキペディア,リナックス,アンドロイド,RISC-V,ウエッブでの検索情報など,オープンソースとして誰でも無料で使用できるものが出てきている。商品を製造するのにエネルギーが必要だが,これを再生可能エネルギーでやれば,永久機関とはいかなくても,エネルギー・コストもゼロに近づく。情報のネットワーク,輸送のネットワーク,エネルギーのネットワークができると,商品のコストはますますゼロに近づく。

 この30年来こうした大きな力が働いているために,世界の商品価格はどんどん下がり,物価はなかなか上がらない。日銀の黒田総裁は2%の物価上昇を目指して膨大な金をばらまいて悪戦苦闘しているが,無駄な抵抗のように見える。

(2-3) シェアリング・エコノミー

 モノの豊かさが増してくると,モノを所有することではなく,モノを使用し,その経験を楽しむことに人々の気持ちが変わってきた。特に若者の中にはそうした動きが出てきている。これはIT技術の発達がそれを可能にしたのである。つまり情報がオープン化され,モノを簡単に使用し,支払い手続きも簡単で返却できる仕組みがIT技術によりできるようになったためである。自動車も所有するのではなく,必要な時シェアーして使うことが世界的に進んでいる。個人の空き部屋も他人にシェアーする。更に自転車,玩具,傘,ネクタイなどにまでそれが広がっている。企業としてはウーバー(自動車),エアビーアンドビー,カウチサーフィン,ホームアウエイ(空き部屋),ベイビープレイス(玩具)などである。自転車のシェアリングは,オランダでは古くからおこなわれており,中国では今猛烈な勢いで増えている。自動車のシェアリングが進めば,自動車の必要な台数は現在の5分の1になると言われている。

(2-4) 労働者の排除が更に進む

 最近の生産の自動化,労働者排除の動きはこうだ。シューズのナイキは労働者の酷使で批判されてから,自動化に拍車をかけ始めた。IT企業であるフレックスと提携し,素材のレーザー光線加工,自動貼り付け加工技術で,生産を自動化すれば人件費は半分になり,材料費は20%削減できるということである。これは労働者がどんどん排除されるということでもある。キヤノンは海外で生産していたデジタルカメラのAIやロボットを駆使した無人工場に近い自動化ラインを宮崎県に作ることにし,製品の国内回帰を図る。しかしこれは当然ながら日本の労働者にとっては朗報ではない。こうした動きはこれからどんどん出てくる。中国でもロボット生産工場がどんどん集まり,ロボットの生産を拡大している。日本のコンビニのローソンは深夜営業と人手不足の問題で無人コンビニの展開を始めた。完全な無人ではなく,在庫管理などをする一人の従業員がいるが,早朝要員を入れると多くの従業員が削減されたことになる。韓国ソウルでも「無人コンビニ」が本格運用に入った。上海に「ビンゴボックス」という無人コンビニができた。ここではスマホ決済で更に簡素化している。

 このようなAIを駆使した自律的に動作するインテリジェントな生産システムが実現されると,人間の働く場所がなくなる。ある調査によると,2030年には世界の就業者は今の半分くらいになり,2045年ころには,内実のある仕事をし,それで食べていけるだけの収入を得られる人は全体の1割程度しかいない可能性があると言う。日本経済新聞とイギリス・フィナンシャル・タイムズによる共同研究によると,人が携わる約2000種類の仕事のうち3割はロボットへ置き換わる可能性があると言われ,日本では5割強の業務が自動化されると言う。

 ドイツでは2013年「インダストリー4.0」で全自動無人化工場を発表してパニックになったが,2035年時点で1460万人の雇用が失われるが,同時に1400万人の雇用が創出されるという希望的推定をしている。しかし1400万人の新しい雇用がどこで生まれるかは明確にされていない。

 農業分野も今ではAI,センサー,ドローン,自動耕作機,自動コンバイン機などで,無人の水田,無人の野菜工場,自動精密農業工場ができている。雑菌を封じ,完熟度のセンサー,CO2センサーなどでより付加価値の高い無菌の農作物を自動で造る。洗浄する必要はない。一時植物工場がいくつか出てきたがあまり成功しなかった。収益性の構造が考えられていなかった。現在では無菌,流通を含めて収益性の高いものがでてきた。キヤノン電子も完全自動化した植物工場を作り始めた。この生産に再生エネルギーを使えばコストは限りなくゼロに近づく。コマツもリモートでの無人自動建設作業をするシステムを開発している。(続く)

関連記事

三輪晴治

国際経済

科学技術

最新のコラム