世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.982

日本の再分配は本当に効率的か

小黒一正

(法政大学 教授)

2018.01.01

 今年(2018年)は,明治維新から150周年記念という節目の年である。明治維新から約80年後の1945年に日本は敗戦を迎え,新たな再生が始まった。1945年から丁度80年後は,団塊世代の全てが75歳以上の後期高齢者となり,医療費・介護費の急増が予測される2025年である。

 財政赤字が恒常化し,債務残高(対GDP)は1945年(敗戦直前)の水準を既に上回る200%超に達し,さらに増加する勢いである。財政破綻という「第二の敗戦」を回避するためにも,新たな社会保障の哲学に関する議論を深め,財政・社会保障の抜本改革を行うことが不可避であるが,社会保障費を抑制しない場合,財政を安定化させるためには消費税率換算で20%超の増税が必要であるとの専門家の試算も多い。社会保障改革を進めても,一定の増税が必要なのは明らかである。

 にもかかわらず,増税に対する反対は多い。例えば,時事通信の調査(2017年10月22日の衆院選出口調査)では,2019年10月に予定する消費増税について,反対は43.3%,賛成33.9%であった。この理由は何か。その一つのヒントは,OECDの「格差は拡大しているか」というレポートにあると思われる。

 このレポートでは,現金給付や税負担等の観点から,所得の最も低い階層に対する所得再分配を2000年半ばで国際比較している表があり,日本はアメリカ並みの再分配しかしていないことが読み取れる。具体的には,次の通りである。まず,政府から受け取る現金給付(対,家計の可処分所得)の平均は,オーストラリア14.3%,フランス32.9%,デンマーク25.6%,日本19.7%,アメリカ9.4%である一方,現金給付の総額のうち所得の最も低い階層が受け取っている割合は,各々41.5%,16.2%,36%,15.9%,24.8%であるため,所得が最も低い階層が受け取っている現金給付(対,家計の可処分所得)は,オーストラリア5.9%,フランス5.3%,デンマーク9.2%,日本3.1%,アメリカ2.3%となっている。

 また,政府に支払う税金や社会保険料(対,家計の可処分所得)の平均は,オーストラリア23.4%,フランス26%,デンマーク52.5%,日本19.7%,アメリカ25.6%である一方,税負担等の総額のうち所得の最も低い階層が負担している割合は,各々0.8%,5.6%,6.1%,6%,1.6%であるため,所得が最も低い階層が負担する税負担等(対,家計の可処分所得)は,オーストラリア0.2%,フランス1.5%,デンマーク3.2%,日本1.2%,アメリカ0.4%となっている。

 その結果,現金給付と負担の差額でみて,所得が最も低い階層への再分配(対,家計の可処分所得)は,オーストラリア5.8%,フランス3.9%,デンマーク6%,日本2%,アメリカ1.9%となり,日本の再分配はアメリカ並みで,ターゲットが中・高所得階層にも大幅に拡大しており,非効率な再分配を行っている可能性が読み取れる。

 人口減少・少子高齢化や経済のグローバル化が進む中,日本経済の成長率は低下しており,少子化対策や格差是正の観点から,保育や教育の無償化などの議論もあるが,日本財政にバラマキ政治を行っている余裕はない。年金・医療・介護などの国庫負担のあり方を含め,本当に困っている人をどう救済するのか,新たな社会保障の哲学に関する議論を深め,限られた財源の使い方を改めて再検討する必要があるのではないか。

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