世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本のエネルギー選択のあり方:「高効率利用」を第一に目指す必要
(東京国際大学 教授)
2017.12.04
エネルギーは,食料と並んで,人間が生存し活動するために基本的に必要となる最も重要な資源の一つである。
昨今,気候変動が大きな話題となり,地球温暖化が今後もますます進むとの警告がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)から出されており,温室効果ガスを削減することを第一としてエネルギー政策を見直すべきとの意見が,COP会議の場,環境NGOから等,様々な機会に出されるようになってきている。
ただし,何が何でもCO2などの温室効果ガスの排出量を減らそうとの政策を導入すると,今まで積み上げてきたエネルギー利用状況に急激な変更を迫り,エネルギーの開発,生産,消費というサプライチェーンに対して大きな変更を迫るとともに,エネルギー需給面においても,市場取引を通じた競争の疎外という課題を生じさせることになる。エネルギーの消費量は膨大であり,部分的に再生可能エネルギーで代替できたから,化石燃料は不要で,再生可能エネルギー100%の世界が直ぐにでも到来するかの論調は,明らかに混乱をもたらす。日本だけでも消費する石油の量は,一日あたりでドラム缶換算で350万本を上回っており,さらに,ガス,石炭と膨大な量が消費されており,簡単に代替できる量ではない。
再生可能エネルギーの大量導入を一気に図ろうと固定価格買取(FIT)制度を導入すると,様々な課題が浮き彫りとなる。2012年のFIT制度導入後,日本では,導入が容易な太陽光発電事業者の荒稼ぎを許すこととなり,再生可能エネルギーの導入量のうち8割超が太陽光発電という偏重を生じさせた。
次いで,2017年現在生じているのが,バイオマス発電で,国内の木材等のバイオマスの有効利用が本来の目的であったはずが,海外木材とパーム油の外国からの輸入増大という突然の大ブームが生じている。
FIT制度においては,買取価格が引き下げられるとともに導入量がしぼむ現象が,ドイツ,スペイン等でも生じてきており,日本でも太陽光発電で顕著に出現した。
しかも,高値で10〜20年間買い入れることを約束した購入額は,そのまま電力消費者の毎月の電気代に足されざるを得ない。FIT制度の下,将来の購入を約束した認定量が膨大に上っており,一般家庭の電気代はさらに上昇することが不可避となっている。
その上,昨今は,2015年末のパリ協定の締結以降,欧州を中心にCO2排出量ゼロを目指すとの取組みが進められている。ただし,日本政府の目標値である2050年に80%排出削減という数値の実現は極めて困難で,再生可能エネルギーを今後も多量に導入しようとすると,日本の電気代をさらに大幅に引き上げないと,導入のための電力インフラの整備費用はまかなえない。
自国内のエネルギー資源埋蔵量が少ない日本においては安全保障面からのエネルギー資源の確保に対する施策の継続が必要で,多様な資源による発電を可能とし,資源の輸入先国との友好関係の維持に努めておく必要がある。
さらに,CO2排出量に高い値段をつけるカーボンプライシングを導入して,CO2排出量が多い産業は日本から出て行ってもらうことが必要と述べる環境派の人々がいるが,排出量取引を強制して大丈夫かを再考しておく必要がある。
日本は京都議定書の下,京都メカニズム(排出権取引,CDM,JI)により1兆円を超える資金を中国を始めとした諸国に支払った経緯がある。日本の支払額は,発展途上国の産業設備の近代化に大きく貢献したことは間違いなく,それら諸国の産業競争力の強化に貢献し,他方,日本の産業の空洞化にも手を貸すこととなった。
日本でも東京都と埼玉県がCO2排出取引を導入しているが,これは,エネルギーを多量に消費する工場は,これら都県内に設置されていなくて結構ですと言えるからこそ実施できている。他の道府県は,是非,工場に進出してほしい,地元の雇用の増大を望んでいるのである。
このように見てくると,CO2排出量を何が何でも減らすという視点からばかり政策を導入することは地域経済の維持・活性化という点から見ても正しくない。カーボンプライシングを導入し,排出量取引により国外に資金を流出させるのと比べれば,国内での環境税の引き上げのほうがまだ許し得る施策となる。
気候変動に対しては,何百年,何千年という長い期間での人々の暮らしが維持できるかという面からの対策,つまり「適応」策こそが重要であり,エネルギー政策は,あくまで「高効率な利用」による消費量の抑制・削減を目指すべきで,そのエネルギー消費量の抑制の結果として,CO2排出量が削減できるのが望ましく,CO2削減を第一に掲げた政策の導入は,全体的なバランスを欠いたものが多く,見直しが必要となっている。膨大なエネルギー消費量の一部で生じた再生可能エネルギーの導入などの出来事が,すぐ全体に及ぶとすることは難しい。
- 筆 者 :武石礼司
- 地 域 :日本
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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