世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.943

ILC誘致は政争とは無関係であるべきだ:候補地を抱える岩手3区選挙結果から

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2017.10.30

 先日の弟48回衆院選は自公の圧勝に終わり,東北6県の23小選挙区では自民党が18議席と大勝,希望の党は1議席に惨敗,残り4議席が無所属であった。東日本大震災の復興は道半ばで風化が進み,自公の政権与党,特に安倍政権の政策運営への住民の不満が随所に聞かれる現状から意外な結果となった。民進党や希望の党等野党勢力が政権交代に向けて結束を欠き,選挙民の不満の受け皿になり得なかったことが大きい。

 そんな中で,世紀の国際プロジェクトの候補地となっている岩手3区の選挙に関心を持った。南極観測やISS(国際宇宙ステーション)に匹敵するといわれる国際科学研究プロジェクトのILC(International Linea Collider)の建設候補地は岩手3区にある。北上山地南部の地下に最先端の線形加速器を設置し宇宙誕生の秘密に迫る科学研究を行うもので,文科省が有識者会議で検討し日本政府の最終決定が間近に迫っている。このプロジェクトについては多くの関係者が意義を認めているが,建設費が1兆円を上回るコスト負担が難点とされて来た。しかし,世界的な宇宙物理学や素粒子研究の実績と関連実験設備機器の技術を有する日本への建設が国際的に期待され,最近では設備機能を短縮しコストを抑えてでも日本に建設して欲しいとの要請が強い(注1)。政府が重視している地域創生や科学技術立国への政策からも最適と目されるし,将来の担い手となる地元の子供たちが夢を描き,住民が地域の活性化に期待を高めているのを目の当たりにして,このプロジェクトの実現を願ってきた(注2)。だから,世界から期待されているいわば千載一遇ともいうべきプロジェクトの誘致がなぜ先延ばされているのか得心が行かなかった。

 岩手3区には17期連続当選を目指す自由党代表の小沢一郎氏(75歳)が無所属で立候補し,前回比例当選で自民党3期目の藤原崇氏(34歳)と争った。小沢氏はかつて自民党の幹事長を務めたが2回の政権交代の立役者で,怨念が残る政権与党とは対立をしている。そのため,公示日には安倍晋三総理自ら選挙区最大の票田である一関市の街頭演説に出向き,13日には小泉信次郎自民党筆頭副幹事長を同市や奥州市に派遣し,ILC誘致を公約のトップに掲げる自民党候補の応援に異例の力を注いだ。それにも関わらず小沢氏が勢いは衰えたものの地盤と野党票を活かし17期連続の当選者となり,ILC誘致への影響が及ぶのではとの懸念があるようだ。というのは,所管官庁の文科省の幹部が「誘致には与党の力が必要で,政権与党は怨念の対象者の地盤に巨費を投入するだろうか」と述べている(注3)からである。小沢氏自身もILC誘致の意義は認めているが優先度は低く,国家にとっての重要な政策の遂行に政治の争いが影響することはあってはならないと切に望みたい。

 地元では,中央政界にはほとんど届かないが,ILC誘致の活動が熱を帯びている。最近の事例では,9月27日に盛岡市で岩手県ILC推進協議会が「ILCを核とした地方創生」との講演会を行った。この中で,講師の東大素粒子物理国際研究センター特任教授の山下了氏は18年度夏ごろから欧州の素粒子物理戦略の5カ年計画の作業が始まるし,中国が大型円形加速器建設計画を18年にも政府決定する予定で,日本政府は最終決定を急ぐべきと訴えた。また,地元マスコミや経済界が支援する岩手県中学生ILCクラブの代表4人が2期目となるこの夏の欧州研修旅行の成果を報告し,ILCが実現する将来の夢を披露した。10月4日には東北経済連合会フォーラムが盛岡市で開催され,元総務大臣や地方分権特命大臣を務めた増田寛也氏は「ILC誘致は最大の地方創生になる」とし,アジア初の大規模な国際研究所誘致の意義を語った。10月24〜27日にはフランスのストラスブルグでILCの国際学会(ILWS)が開催され,東北ILC推進協議会は鈴木厚人準備室長らを派遣し日本の準備状況を広報している。

 政府は地方創生や活性化と銘打ってアイデアを募って補助金をばらまいているが,地元がこれほど熱を帯び活発な活動を展開している具体例を寡聞にして知らない。ILC誘致は政治の世界では票に結びつきにくい案件であり,誘致への決定プロセスに政争の影響があるとすれば,これからの日本の国家運営にとっては千載一遇の機会を逸し,国際的な期待に応じられない結果にもなりかねない。大げさではないかと思いつつも,「白河以北一山百文」と軽んじられてきた東北地方の地元ゆえに感じた不安を知ってもらえたらと報告する。(2017年10月26日記)

 

[注]
  • (1)『ILC,スティジングで早期建設を目指す』ITIフラッシュ No.339(2017年7月12日)
  • (2)『ILC誘致で大震災の復興と新しい東北の創生』世界経済評論インパクト,No.675(2016年7月25日)及び『ILC理解のバス・ツアーに参加して思ったこと』同,No.712(2016年9月12日)
  • (3)2017年10月8日付河北新報

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