世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.915

バイラテラリズムは終わらない

小野田欣也

(杏林大学総合政策学部 教授)

2017.09.18

 アメリカのトランプ政権はTPP,パリ協定からの離脱,NAFTAの再交渉を進めている。アメリカは元来,バイ,リージョナル,マルチのスリートラックアプローチ,あるいはバイとマルチのツートラックアプローチを用いて国際貿易交渉を進めてきたと言われている。しかしその基本はバイラテラリズムにあるのではないだろうか。

 筆者は長年にわたり日米貿易摩擦を研究してきたが,アメリカの交渉スタンスは基本的にバイラテラリズムにあると考える。1950年代のいわゆるワンダラーブラウス事件や日本製品表示義務運動に始まり,1960年代の日米綿製品協定を経て,さらに米・韓国,米・香港,米・台湾などの綿製品2国間協定が成立する。それらを集約させて,LTA(綿製品に関する長期取極)が完成した。続く1970年代には日米繊維協定,米韓,米香港,米台湾などの2国間協定が次々と結ばれ,やがて1974年のMFA(繊維製品に関する国際取極)に結実する。

 同様に鉄鋼貿易では,1978年のトリガー価格制度(当時世界で最も生産性の高かった日本の生産費に輸入費用を加えた価格をトリガー(引き金)として,これを下回った場合,ダンピング調査を開始する)に始まり,1984年の鉄鋼輸出シェア制限(アメリアが鉄鋼を輸入する総額をあらかじめ決め,それを日本,EC,韓国,スペイン,ブラジル,南アフリカ,メキシコ,オーストラリアの8輸出国にシェアを割り当てる)の実現を見る。これも繊維と同様,バイからマルチへの集大成である。

 1980〜90年代は,MOSS協議,日米構造協議,日米包括経済協議により日本の市場開放を突き進めた。3つの協議は市場開放に関する個別問題から総論へのルートを形成する。この方式は日米のみならず,米中などの2カ国経済会合で採用されている。

 このようにアメリカの通商政策はバイラテラリズムが基礎であり,バイの集大成としてマルチとなる。1990年代のAPEC,2000年代のTPPなど,折に触れてマルチからのスタートもあるが,それらはアジアにおける通商覇権の綻びを防止するにすぎず,アメリカ国民の関心が低いことからもその優先順位はあまり高くない。

 トランプ政権のバイラテラリズムはオバマ政権時代のマルチからの転換として注目されているが,むしろ通商政策に関する限り,ブレはあまりないと考えるのは筆者の斜め読みであろうか。

 日本は世界中で最もアメリカと貿易摩擦を戦った国である。そこから多くの経験を学んでいる。TPPのさなか,日豪FTAを結び肉製品などでアメリカを牽制したことはその証左であろう。バイラテラリズムの旗手と対米貿易戦の勇者,これからの日米貿易は面白い。

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