世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.890

ひとり暮らし老人の買い物ニーズ

吉原英樹

(神戸大学 名誉教授)

2017.08.07

うれしい変化

 毎日,徒歩で,近くのコープ(生活協同組合コープこうべ,コープ白川台)に食材の買い物に行く。うれしい変化がふえている。野菜,肉,くだもの,惣菜などの少量化と1個売りの増加である。「ちょっと が いいね」の値札(商品案内)が多くなっている。ベーコンやハムなどの包装の開け口が,あけやすいように改善された。

 自宅に配達してもらえるサービスがうれしい。65歳以上は無料。ただし,冷蔵商品,冷凍商品,たまご等はのぞく。ビール,酒,お茶(ペットボトル),トイレットペーパー,洗剤など重いものは,このサービスを利用する。

 カートに拡大鏡が備え付けてある。

 レジでの店員の応対が老人に親切である。買い物かごが重いときは,自分の買い物袋などに入れ替えをするサッカー台まで運んでくれる。会計に時間がかかっても待ってくれる。

 ひとり暮らし老人のわたくしには,それでもまだ不満がある。

 桃は2個売りしかない。スイカの切り身も大きすぎる。たまねぎ,じゃがいもなどの1個売りをふやしてほしい。食パンの3枚入り,ロールパンの3つ入りをふやしてほしい。コーヒー(ドリップ1回分の分量),和菓子,ケーキも小さいものがほしい。ヨーグルトの容器を開くつまみを大きくしてほしい。

 ひとり暮らし老人の増加という構造的変化が進行している。それは漸進的な変化であり,半年,1年では目立たないが,5年経つとはっきりわかる。わたくしのひとり暮らしは今年で6年目になる。顧客の高齢化が目立つようである。高齢者,それも要介護の一歩手前のひとがふえており,付き添いのひとといっしょがめずらしくない。

売り方改革

 ひとり暮らし老人は高齢者の3分の1ほどであるという。その市場規模は大きく,成長市場であり,年々ふえることはあっても減ることはない。シングルシニア・マーケットの大きさと成長スピードは要注目である。ひとり暮らし老人の買い物のニーズに対応して売り方を改革することは,大きなビジネス成果を生むにちがいない。

 ひとり暮らし老人の買い物のニーズに対応する売り方改革について,わたくしの実需および見聞などをベースにいくつか提案してみたい。

 ひとり暮らし老人の市場はニッチ市場でなく,主要市場のひとつであり,未開拓な部分が多い。ニーズに適切に対応すると大きな成果があるにちがいない。まず,このように考えることが大切である。

 ニーズは,老人本人には明確であり,顕在的である。しかし,そのニーズを満たしてくれる商品が店にない。さがすが,みつからない。不満をもったまま帰る。

 ニーズに適合した売り方を考え出すには,老人を引き込むのがよい。老人,とくに男性には無口・孤独・引きこもりタイプが多いようだ。自分の要望や不満を自分からいわない。女性客は店で立ち話をするひとが多いが,立ち話をしている男性客をみたことがない。男性客のレジでの質問や要望は重要なアイデア源であるから,耳を傾けることが大切である。

 また,他の店のよい売り方を模倣あるいは参考にする(模倣的革新)ことも大切である。

 わたくしの家に近い大丸須磨店では,店員にたのめば,桃,ラフランスを1個売りしてくれる。大阪阿倍野の近鉄百貨店,ハルカスの野菜売り場は,豊富な品ぞろえであり,すべての野菜に食べ方を説明した用紙がついている。

 コープの売り場を歩いて,食材の豊富さにはおどろく。マヨネーズ,ドレッシング,ごはん(レトルト),ジュース,お茶(ペットボトル),インスタントスープ,餃子,冷凍食品,ヨーグルト,漬物,納豆,とうふ,菓子(和・洋),パンなどは,それぞれ何種類もある。この製品多様化の努力の一部を,ひとり暮らし老人の買い物ニーズに適合する売り方の改革に向けてほしい。

 高齢化はアジアを中心に世界的な現象であり,日本が先頭を走っている。ひとり暮らし老人の買い物はその一例である。日本のひとり暮らし老人の買い物ニーズに適した売り方は,国内で有効なだけでなく,おそらく世界で支持されるのではないか。

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