世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.801

中国経済の減速と中国からの資本流出

岩本武和

(京都大学経済学研究科 教授)

2017.02.20

 これまで東アジアの新興国は,世界の成長センターとして,日米欧などからマネーを誘引することで高成長を続けてきた。しかし,主要30の新興国への資本流入は2015年に前年から50%減少し,ネットで5400億ドル(約65兆円)の流出超となった。流出超は1988年以来,27年ぶりのことである。国別では中国が過去最大で,韓国(743億ドル),マレーシア(334億ドル),タイ(216億ドル)が続いた。

 一見すると,アジア通貨危機直前の様相を呈しているが,新興国の外貨準備高は過去15年で11倍に増えた。企業の借り入れも期間の長い融資比率が増え安定性が増しており,1997年のような通貨危機には至らないだろう。

 さて,中国について見ると,長年ネットで資本の流入国であったのが,2014年後半以降,ネットで流出国となり,2015年には4800億ドルの流出超となった。もう少し詳しく見ておこう。

 よく知られているように,2000年以降,中国の国際収支構造は,第一に,「経常収支黒字+資本流入」という「双順差」(双子の黒字)が続いており,変動相場制ならば外貨(ドル)が外為市場で売られてドル安・元高となるはずである。しかし,事実上の対ドル固定相場制を採用していたので,外貨(ドル)は市場ではなく通貨当局に売られ(いわゆるドル買い・元売りの市場介入),膨大な外貨準備が蓄積されることになった。

 しかし第二に,2008年のリーマンショック以降,同じ「双順差」と言っても,「経常収支黒字の激減+資本流入の激増」という構造に変化した。米国を初めとする先進国経済の景気後退は,中国の輸出を減少させ,同じく外貨準備の増加と言っても,それは資本フロー純流入によるものであった。

 第三に,2014年以降,経常収支黒字はやや増加に転じたものの,資本流入は激減し,2015年にはついにネットで資本流出に転じた。「双順差」から「一順一逆」への大きな変化だ。それは,中国に投資してきた非居住者が投資を引き揚げたことが大きな要因と考えられる。その結果,それまで増加を続けてきた外貨準備も減少しはじめた。

 同じことを,為替レートで確認しておこう。2005年に管理フロート制に移行してから,人民元は1ドル=8.28元から,2010年までの5年間で,6.83元まで切り上がったが,2015年8月11日には,国内経済の減速を輸出の振興によって補うべく,人民元の対ドル基準値を,対前日比1.8%の切り下げを実施した。元安はさらなる資本流出を発生させ,人民銀行は元買い・ドル売りで対応せざるを得ず,外貨準備高をほぼ3000億ドル減少させ,2015年の資本フローは,ネットで流出超になった。景気回復のための元安が資本流出を招き,それに対応するためには金融を引き締めざるを得ず,当初の景気回復策を打ち消してしまうという意味で,中国は現在,典型的な「トリレンマ」に直面しているのである。

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