世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.799

SSDが壊れた

鶴岡秀志

(信州大学カーボン科学研究所 特任教授)

2017.02.20

 2012年製のApple iMacがアップデートを積み重ねて遅くなってしまったので,処理速度を向上させるために外付SSDを採用した。真に爆速になったのだが3ヶ月で肝心のSSDが壊れてしまった。SSDとはSolid State Driveの略で半導体だけで構成された記憶装置であり,これがないとスマホもただの板である。従来のハードディスク・ドライブ(HDD)の置き換えに使うものである。パソコンの中枢である中央演算処理装置(CPU)が一世代前でもHDDをSSDに換えると,科学技術計算以外なら最新式の高級パソコンに生まれ変わる。現在,SSDの人気が高まり価格が上昇気味なのだが,爆速を知ってしまうと1日でも超低速に耐えられず,やむなく新しいSSDを購入した。旧型Macをお持ちの方は,獺祭をレストランで飲んだと思って,是非,外付SSDを試してください。

 SSD用のフラッシュ・メモリ価格がここ数年で劇的に下がったことによりスマホの性能が飛躍的に良くなった。ちなみに東芝の主力半導体はこのフラッシュ・メモリである。おかげで最新のスマホ上位機種は30年前のスパコン並みである。通信ガジェットだけではなくAIに代表されるソフトの発展により多くの機器が進化した。1960年代に放送されたTV人形劇サンダーバード,国際救助隊の設定は21世紀初頭であるが,そこに登場する多くの技術が現実になっている。サンダーバード1号は最新戦闘機のF35B,2号は大きさが違うがオスプレー,3号はジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジンのニュー・シェパード・ロケット,4号は日本のしんかい6500,5号は国際宇宙ステーションISSである。通信はまさにApple Watch,iPad,Face Timeにほかならない。一方で,SFでは社会の基板として経済はほとんど描かれず,単純に電子マネー化している。スターウォーズ・エピソード7で,貨幣は辺境の地の惑星ジャクーの象徴として使われている(ゴールド・ラッシュ時代の金交換所ですね)。

 AIと装置の進化で30〜40年前のSFが現実となってくることは楽しいことだが,この先,火星への定住が実現する時に金融のTransactionはどうなるか? このことを経済分野の方々が研究していると思いたい。なぜなら,現在の経済を支える通信と決済条件はパラダイム・シフトを迫られるからである。地球と火星の間は光の速度で4〜20分必要とする。一定でないのは,地球と火星の位置が変わるためである。現在の金融取引のように瞬時に価格が変化する,電子取引で瞬時に決済が終了するのは地球上でのことであり,地球〜火星となった場合には往復で最大40分,承認などが必要な場合には相互通信で数時間を必要とする。カード支払いの承認待ちでもイライラするのに,食事の会計処理に2時間もかかったら楽しいひと時も台無しである。前場のはずが後場になって大損もあり得る。極微の世界では量子ワープが有り得ることが研究されているが,あくまでも素粒子の世界の現象なので,現実世界は光の速度は越えられないという相対性原理に縛られる。

 そんな火星移住の話はずっと先だ,と言えないことは,この50年を見れば明らかである。1960年にスマホはSFのお伽噺だったはずである。SF作家で経済を描き出す作者は稀であるが,ハリントン・シリーズやSafeholdシリーズの作者であるDavid Weberは必ず経済の基盤をストーリーに組み込んでいる。著者のあとがきに専門家から教示を受けていると書かれているが,ストーリー全体が経済の原則を守っており,話全体が引き締まっていて荒唐無稽ではない。前者は恒星間貿易と鎖国(鎖恒星系?)による経済を,後者は植民惑星内の物々交換から近代経済への発展を扱っている。現実の金融世界では電子マネーとフィンテックスが最新ともてはやされているが,財務分析を語る(つまり過去)のではなく,近未来に経済圏が太陽系内となった時の経済システムを提案する人が出てきても良さそうである。昔のSFに登場する技術の具現化を見るにつけ,バブル崩壊だけではなく,空間の拡大に伴う経済の大変化も決してあり得ないことでは無いという思いに駆られる。そのパラダイム・シフトをサポートする技術を,ナノテクを用いて生み出したい。

 SSDが壊れると財産を失う日も遠くない。

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