世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.791

地域銀行による海外進出支援の質的転換

伊鹿倉正司

(東北学院大学 准教授)

2017.02.06

 2015年4月,北陸地方を代表する老舗企業が民事再生法の適用を東京地裁に申請した。同社は1990年代前半に中国へ事業展開を行い,その後,順調に売上高を伸ばしてきたが,中国経済の減速によって売掛金の回収が滞ったことや,現地子会社による不正取引などにより多額の債務超過に陥り,経営破たんを余儀なくされた。社内のリスク管理体制の不備など,破たんに至る伏線が様々指摘されているなか,銀行業に関心がある者からすると,「なぜメインバンクは事前に問題を見抜けなかったのか」という素朴な疑問が頭に浮かぶ。

地域銀行による海外進出支援

 2000年代後半以降,地方の中小企業の海外進出が増加したのに呼応して,近年,地域銀行(地方銀行と第二地方銀行の総称)は海外進出支援に力を入れている。

 地域銀行の取り組みとしては主に3つある。第1は,海外拠点の設置である。2004年に66拠点を数えた地域銀行の海外拠点は,その後,年平均3〜4拠点のペースで増加し,現在(2017年1月)で110拠点となっている。それら多くは駐在員事務所の設置であり,バンコクやシンガポールといった東南アジア地域の主要都市への設置が目立つ。

 第2は,外部機関との業務提携である。企業が地域銀行に求めている海外進出支援は,資金調達や為替リスクの管理といった金融面の対応よりも,現地での販売先の確保や現地人材の確保・育成・管理などの非金融面での対応が多くを占めている。そのため,2011年以降,多くの地域銀行が海外進出支援に関する業務提携の締結を積極的に行っており,現在,地域銀行105行(地方銀行64行,第二地方銀行41行)のほとんどが1つ以上の外部機関と業務提携を行っている。主な業務提携先としては,東南アジア地域の現地銀行や国内大手銀行,国内損害保険会社などが挙げられるが,金融機関以外にも日本貿易保険,警備会社,物流会社,監査法人・コンサルティング会社など,提携先は多岐にわたっている。

 第3は,行内の海外人材育成である。主な育成方法としては,従来の国内大手銀行へのトレーニー派遣に加えて,東南アジア地域の現地銀行へのトレーニー派遣が挙げられる。派遣された行員は,受け入れ銀行のジャパンデスク(日系企業対応窓口)に籍をおきながら,およそ2年程度で現地の金融情勢や商慣習を学び,帰国後は国内営業店において海外進出支援の実務を担っている。また,ジェトロ(日本貿易振興機構)への行員派遣も近年増加しており,ジェトロの国内外の事務所に地域銀行全体で延べ80名近くの行員が派遣されている。

地域銀行が取り組むべき真の海外進出支援とは?

 前節では,地域銀行による海外進出支援の取り組みを概観してきたが,それらの取り組みの大半は,「いかに企業を海外に進出させるか」といった点に重きが置かれている一方,「進出後,いかに企業を海外で生き残らせるか」という点にあまり重きが置かれていない。

 冒頭の事例において,メインバンクは海外拠点を有し,手厚い海外進出支援を行っているにも関わらず,企業の異変を事前に察知できなかった理由には,進出後のケアの意識が希薄であったことが指摘できる。同様の事例が繰り返されないためにも,地域銀行は進出前の支援だけではなく,進出後の支援,場合によっては撤退時の支援も重要な海外進出支援と捉え,包括的な支援に取り組む必要があると考えられる。なお,進出後の支援とは,地域銀行にとって決して特別な取り組みが求められるものではなく,海外進出企業に対する日常的なモニタリング活動の徹底に他ならない。いわゆる地域金融の世界でいう「リレーションシップ・バンキング」の更なる強化である。

 海外進出した中小企業の多くは,現地での販売不振,それに伴う現地子会社の資金繰りの悪化,現地パートナーとの不調和などの問題に直面しているとされるが,これらの問題の発生を進出前に正確に予見することは不可能である。ここで重要なのは,問題が明らかになった時点で迅速な対応を行うことであり,そのためには地域銀行による親銀行と現地子会社双方に対する日常的なモニタリング活動が不可欠である。また,海外事業からの撤退を余儀なくされる場合,企業は投資資金の回収や現地従業員の処遇,現地法制度の対応などに苦慮することが多い。地域銀行によるモニタリング活動が適切に行われていれば,経営者に素早い撤退の決断を促したり,会計士や弁護士などの専門家に余裕を持って対応を依頼したりするなど,撤退による親会社への悪影響を最小限に抑えることができよう。

 安倍政権が打ち出した「日本再興戦略」では,2018年度までに中小企業の海外進出数を1万社にする目標が掲げられているが,果たしてそれに何の意味があるのであろうか。やみくもに数を増やすのではなく,中小企業が長期にわたって海外事業を継続できるような支援を行うことが,海外進出企業の生産性向上や国内雇用の増加といった海外進出による果実を確実に得ることにつながるのではないだろうか。そのためには,地域銀行による海外進出支援の質的転換が何よりも求められている。

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