世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.790

国境調整税に見られる共和党の変化を見逃すな

高橋俊樹

(国際貿易投資研究所 研究主幹)

2017.01.30

 米国でトランプ新大統領が就任するや否や,矢継ぎ早に大統領令を繰り出し,TPP(環太平洋経済連携協定)離脱やNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉,メキシコ国境での壁の建設などを表明した。これは,米国第一主義に基づき,米国の雇用を拡大し貿易赤字の削減を狙ったものだ。

 さらには,メキシコへの投資による生産物の米国への輸入を抑制するために35%の関税(あるいは国境税)を賦課するとともに,中国の為替操作などへの対応から45%の関税を設ける可能性を示唆している。また,1兆ドルのインフラ投資を促進する一方で,連邦法人税を35%から15%まで引き下げ,個人所得税を減税すると表明している。

 トランプ新大統領の攻勢に圧倒される毎日であるが,全てが思い通りになるわけではない。例えば,NAFTAの再交渉において,必ずしも米国が圧倒的に有利な交渉を進めることができるとは限らない。これは,カナダ・メキシコが自国の立場を主張する交渉材料を持っているからであるし,既にTPPの交渉で,環境・労働,知的財産権などの分野で,NAFTAの再交渉のお手本とすべき議論を実施済みであるからだ。実際の交渉では,米国は国境税などの輸入抑制措置,原産地規則,環境・労働,知的財産,eコマース,農産物規制(カナダの酪農製品等),カナダの文化政策などを始めとして全ての分野を持ち出すと考えられる。

 トランプ大統領の国境税はメキシコなどに投資し米国に輸出する企業に対して課税すると示唆しているだけで,その正確な内容は不明である。これに対して,共和党(GOP)が検討している国境調整税(BAT)の内容はある程度は判明している。共和党の国境調整税が成立すれば,これまで米国から輸出する財サービスの利益に掛かっていた法人税が免税になる。例えば,100ドルの輸出で33ドルの利益がある場合,これまでは12%(12ドル(33ドル×法人税35%)/100ドル)を課税していたものが,今後は免除される。

 一方,これまで免税されていた米国に輸入される財サービスに法人税がかかる。共和党案の新たな輸入品への法人税は20%程度と考えられているが,10%程度になるとの見方もある。トランプ大統領はGOPの国境調整税案を複雑だと批判しているし,これを受けて,ムニューチン財務長官も不支持を表明した。国境調整税の成立の可能性は3割との見方があったが,トランプ大統領の批判から可決の見込みはそれよりも低まったと考えられる。

 ライアン下院議長を中心に共和党が国境調整税を議論している背景には,米国以外のほとんどの国は国内利益には課税,海外利益には非課税にしていることが挙げられる。日本でも,輸出品の仕入れにかかった消費税は後から還付される。米国では,海外での利益(2兆ドル)を国内に戻すと課税されるため,そのほとんどが国内に還流されない。このため,米国内投資のGDP比率が減少,米国企業の本社が海外へ移転する現象が起こっている。

 現行の米国の税制は輸出にペナルティ,輸入に補助金を与えているとの批判を受けて,共和党案は法人税の35%を15%に減税する代わりに,税収不足を相殺するために,国境で輸入品への法人税を引き上げようとしているのだ。すなわち,共和党においても,米国内で生産する方が法人税の支払いという面で有利になるルールを検討しているということだ。

 共和党の国境調整税は,トランプ大統領の国境税とは違い特定の企業を狙うものではなく,35%の法人税が減税されるものの,国境での関税の引き上げと同等の効果を発揮する。米国に本社や子会社を持つ企業は法人税の減税の恩恵から国境調整税の影響を最小限に食い止められるが,それを受けられない企業には大きな打撃になる。

 国境調整税は米国の輸出を拡大し輸入を縮小させるため,貿易赤字が減少し,ドル高要因になる。同時に,輸入コストの上昇要因となり,インフレを招く(消費者物価で数%程度か)。20%の輸入関税,12%の輸出補助金と同等の効果を持ち,4,000億ドルの貿易赤字の削減効果を持つとの試算もある。

 共和党案は英国のEU離脱からの連鎖による保護主義への回帰とまでは言えないものの,トランプ新政権の動きと同調することにより,米国に子会社を持たない外国企業の対米輸出には大きな壁になる可能性がある。

 共和党の国境調整税の成立には多くの反対意見を乗り越えなければならないが,今のところ批判的なトランプ大統領の動きによっては急浮上することもありうる。そうなれば,日本は既に米国での生産を促進し,対米輸出は親子間貿易の割合が高く,国境調整税の影響が相対的に低いものの,NAFTA域内のサプライチェーンの再構築を迫られることは不可避である。

 その内容によっては,日本企業は対メキシコ・カナダ投資から対米投資への転換や北米以外の第3国を経由した対米輸出への転換を迫られるが,NAFTAの再交渉の結果次第では,新たな北米でのビジネスチャンスが生まれる可能性もある。このため,NAFTAの再交渉が行われる場合は,国境税や政府調達,原産地規則,環境・労働などの交渉の内容を徹底的に情報収集し分析することが求められる。

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