世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.755

東アジアの経済統合と発展―AEC,RCEP,TPPと一帯一路:アジア政経学会秋季大会の共通論題から

清水一史

(九州大学大学院経済学研究院 教授)

2016.11.28

 11月19日には,北九州国際会議場(小倉)でアジア政経学会秋季大会が開催された。共通論題では,「東アジアの経済統合と発展―AEC,RCEP,TPPと一帯一路―」を企画した。前週のアメリカ大統領選でトランプ氏が当選し,アメリカのTPPからの撤退と東アジア経済への影響が危惧される中での開催となった。

 本共通論題は,以下の趣旨で,以下のメンバーによって行われた。

 「東アジアではASEANが経済統合を牽引してきた。ASEANは,1976年から域内経済協力を開始し,1992年からはASEAN自由貿易地域(AFTA)を推進し,2015年末にはASEAN経済共同体(AEC)を創設した。また東アジアにおいては,アジア経済危機を契機にASEAN+3やASEAN+6などのASEANを中心とした重層的な協力が展開してきた。またASEANを軸としたASEAN+1のFTAが確立されてきた。

 そして2008年からの世界金融危機後の構造変化の中で,TPPが大きな意味を持ち始め,ASEANと東アジアの経済統合に大きな影響を与えている。東アジア全体のFTAは,これまでは構想されたものの交渉には至らなかったが,TPP交渉が進展する中で,2011年11月にはASEANが東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を提案し,2013年5月には交渉が開始された。2015年10月には,TPPが遂に大筋合意に至った。TPPは,ASEANとRCEPを含めた東アジアの経済統合に,更に影響を与えるであろう。他方,中国は,独自の「一帯一路」や,アジアインフラ投資銀行(AIIB)による協力を進めている。

 ASEAN,中国,韓国,インド,そして日本は,どのように東アジアの経済統合とFTAを推進して行くのか。それは,現代の世界経済における成長の中心である東アジア経済の発展においても,きわめて重要である。本セッションでは,東アジアの経済統合と発展に関して,北東アジア,東南アジア,南アジアを含めた広域の東アジアから分析する。また経済だけではなく,政治と国際関係からの論点も議論したい。

  •  司会  清水一史(九州大学)
  •  報告1 石川幸一(亜細亜大学)「東アジアの経済統合とFTA」
  •  報告2 平川 均(国士舘大学)「東アジアの経済統合と新たな可能性」
  •  報告3 遊川和郎(亜細亜大学)「一帯一路の政治経済学的考察」
  •  討論  石上悦朗(福岡大学)
  •  討論  大庭三枝(東京理科大学)」

 石川先生には,AEC,RCEP,TPPについて,これまでの状況と最近の変化について報告頂いた。平川先生には,東アジアのこれまの経済発展と最近の変化とともに現在の経済統合について報告頂いた。遊川先生には,中国の一帯一路とAIIBの状況について報告頂いた。3つの報告後に,石上先生にインド経済の視点から,大庭先生には国際関係論の視点から東アジアの経済統合についてコメントを頂いた。更には特別参加の外務省の甲木浩太郎室長からも,現在の東アジア経済統合についてコメントを頂く事が出来た。

 フロアからのコメントも頂き,3時間近くの長時間にわたって,広い地域と学問領域から,東アジアの経済統合と発展について多くの議論を行う事が出来た。出席者も多く,予備席を出す程であった。

 今回の共通論題では,現在の東アジアの経済統合と発展について,これまで着実に進められてきた面と,現在多くの変動要因があることを確認した。東アジアの経済統合は,世界経済の変化の中で着実に進められてきた。AECは昨年末に創設され,関税の撤廃がほぼ実現し東アジアで最も深化した経済統合となっている。ASEAN+1のFTAも,それぞれ発効して進められている。RCEPも,交渉が進められている。しかし,これまでの経済統合とFTAに,TPPと一帯一路がかぶさり,東アジアの経済統合は複雑な状況となってきている。現在の東アジア経済統合には,これまで着実に進められてきた側面に加え,多くの変動要因が生まれてきた。

 そしてトランプ氏の当選により,東アジアの経済統合を後押ししてきたTPPの発効は難しくなっている。TPPを巡る現在の状況は,RCEPの交渉をも遅らせる可能性がある。更に,東アジアとともに世界全体の貿易自由化とFTAを停滞させる,あるいは逆行させる可能性がある。

 東アジアは,自由貿易体制の中で,貿易と投資の相互依存の拡大の中で,急速に発展してきた。それらが阻害される事は,東アジアの発展にも大きなマイナスとなる。同時に世界経済にも大きなマイナスの影響を与える。TPPとRCEP,そして世界全体での貿易自由化と通商ルール化を進めなければならない。

 最後に日本は,世界第3位の経済大国として,TPPと東アジアの経済統合の進展にも大きな役割を担っている。世界と東アジアの貿易自由化と通商ルール化を牽引しなければならない。世界と東アジアを,保護主義に陥らせてはならない。

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清水一史

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